今、医療ダイエットがブームだ。特にマンジャロなどの2型糖尿病の薬でやせる方法が人気を博している。肥満症専門医で糖尿病専門医の神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門特命教授の小川渉さんは「副作用や健康被害について不明な点が多く、すすめることはできない」という――。(聞き手・構成=石川美香子)
インスリン注射のイメージ
写真=iStock.com/coldsnowstorm
※写真はイメージです

「やせ薬」として人気の糖尿病薬の種類

今、2型糖尿病や肥満症に使われる治療薬を「やせ薬」として使うダイエットがブームです。これには強い危惧を感じます。というのも、2型糖尿病や肥満症でない人が安易にこれらの薬を使用するのは、さまざまなリスクを負う行為だからです。そこで、長年にわたって糖尿病や肥満症の診療に携わってきた肥満症専門医・糖尿病専門医の立場から見て、これらの薬によるダイエットにはどのようなリスクがあるかについて、お話ししたいと思います。

現在、やせ薬としてよく使用されている糖尿病薬は、代表的なものとして「マンジャロ(有効成分:チルゼパチド)」「リベルサス(有効成分:セマグルチド)」などのGLP-1関連受容体作動薬と、「カナグル(有効成分:カナグリフロジン)」「ルセフィ(有効成分:ルセオグリフロジン)」「スーグラ(有効成分:イプラグリフロジン)」などのSGLT2阻害薬があります。

このほか、サノレックス(有効成分:マジンドール)という薬もありますが、やせ薬として広く使われているわけではなさそうです。というのも、サノレックスは神経に働きかけて食欲を抑制しますが、他の薬剤に比べ、効果はそれほど強くありません。

ダイエットに使われるようになった理由

そもそも、なぜ糖尿病薬がダイエットに使われるようになったのでしょうか。

マンジャロとリベルサスはGLP-1関連受容体作動薬ですが、マンジャロは注射薬で、リベルサスは内服薬。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)というのは、もともと私たちの体内に存在する消化管ホルモンで、食事を摂取すると小腸から分泌されます。この薬はGLP-1の働きを模倣し、膵臓に作用してインスリンの分泌を促し、血糖値が高いときにだけ下げるよう作用するのです。また、マンジャロは、GLP-1に加えてGIP(グルコース依存性インスリノトロピックポリペプチド-1)というホルモンの働きを模倣する作用も持ちますが、GLP-1とGIPは協調して作用を強めることが知られています。

もともとGLP-1関連受容体作動薬は糖尿病治療薬として開発されましたが、食欲抑制による減量効果があることがわかり、肥満症治療薬としても開発が行われました。肥満症を対象とした臨床試験において、マンジャロの成分であるチルゼパチドではおよそ1年半の使用で22%強、リベルサスの成分であるセマグルチドでは13%強の体重減少が報告されています。