どうすれば幸福な人生を送れるのか。この問いは古代ギリシャの時代から論じられてきた。哲学者・小川仁志さん監修の『スッと頭に入る哲学 哲学は人生の道しるべ』(昭文社)から、賢人たちが出した答えを紹介しよう――。

※本稿は、監修・小川仁志『スッと頭に入る哲学 哲学は人生の道しるべ』(昭文社)の一部を再編集したものです。

日没時に太陽と地平線を見ている男
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欲深い人の心は永遠に満たされない

現代社会は、ものにあふれすぎているといわれます。ネットで買い物をすれば、翌日には手元に届くような大量消費社会。新製品は次々と登場し、飽きるのも早くなってきました。欲しいものがあっても、手に入ればすぐに次の欲が出てきます。

この「終わりなき欲求」にどう向き合えばいいのか。そのヒントをくれるのが、古代中国の思想家・老子(紀元前6世紀頃)です。

彼の言葉の中に「知足者富(足るを知る者は富む)」という一節があります。これは、「満足を知る人は、たとえ多くを持たなくても豊かである」という意味です。老子は、あれもこれもと欲しがる人間の性を否定しているわけではありません。なにかを欲する欲求は、人として抱いてしまうもの。ただ、欲望を抑える術を知らなければ、心は永遠に満たされないと語るのです。

たとえば、広い家を手に入れても、やがてはもっと広い家が欲しくなる。高級車を買っても、それに飽きれば次の新型車が欲しくなる。こうして所有物が増えても、心の空白は埋まらないまま残るのです。

では本当の豊かさとは、どこにあるのか? 老子は、「今自分の手元にあるものを、ありがたく感じられる心」にこそ、真の豊かさがあると説いています。これは、「ものを減らせ」といっているのではありません。「今あるもので、もう十分だ」と思える自分を持つ、「足りている」ことを知る、ということです。