東京都は、水素バリューチェーン推進協議会や東京ハイヤー・タクシー協会に加盟する、トヨタ自動車、岩谷産業、日本交通などと合同で燃料電池車(FCV)の普及に乗り出す。9月3日には水素で走るタクシーが走行開始し、FCバスやFCトラックなども展示された。「EVシフト」に慎重だったトヨタが、なぜ燃料電池車の開発に力を入れるのか。佐藤恒治社長が、ノンフィクション作家・野地秩嘉さんの単独インタビューに答えた――。
燃料電池タクシーとして都内で走行開始したクラウン=9月3日、都庁
写真提供=トヨタ自動車
燃料電池タクシーとして都内で走行開始したクラウン=9月3日、都庁

燃料電池のクラウンが東京を走る

9月3日の午後、東京都庁前の道路には4人の人物と6台の水素を使った燃料電池モビリティが並んでいた。並んでいたなかのひとり、小池百合子都知事がメッセージを述べ、トヨタ製燃料電池タクシー、クラウンをスタートさせた。

「みなさん、水素で走る燃料電池タクシーの出発式です。では、スタートです」

「出発式です」と宣言し、水素のタクシーが走り、水素モビリティを試乗できるという単純なイベントだったにもかかわらず、報道陣はかなりの数が集まっていた。日本を活性化させる未来について報道することは読者の興味を引くと判断したのだろう。

出発式の直前、都庁の大会議室では「水素を使う」アクションを加速させるプロジェクト「TOKYO H2」(トウキョウ エイチトゥ)の発表会が行われた。

「TOKYO H2」のアクションに使用される燃料電池モビリティは次の6台で、これもまた都庁前の道路に展示してあった。

30分かかる充電がわずか3分で完了

1台目 燃料電池タクシーに使われるクラウン。一回当たりの水素充填による走行距離は820kmで、充填時間は約3分。バッテリーEVよりも走行距離は長い。なにより、充填時間が短い。一般のバッテリーEVは急速充電でも30分はかかる。燃料電池車はわずか3分だ。

2台目 次は同じく燃料電池車のホンダCRV、e:FCEV。一回の充填で走れる距離は約621km。

3台目 燃料電池バスはトヨタのSORA。

4台目 燃料電池トラックはFC小型トラック。いすゞ、トヨタ、コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)の共同開発だ。CJPTはいすゞ、日野、トヨタ、スズキ、ダイハツが参画した電動化と物流効率化のための会社組織である。

5台目 燃料電池フォークリフトは豊田自動織機が開発し、トヨタL&F東京が販売を行う次世代のエア・フォークリフト。L&FとはLogistics(物流)とForklift(フォークリフト)の頭文字を取ったものだ。同社はトヨタ自動織機の社内カンパニーで、フォークリフトの国内シェアは40%。業界のリーディングカンパニーである。トヨタは車だけでなく、フォークリフトでも強い。なお、燃料電池フォークリフトは外部への給電機能も備えている。

6台目 燃料電池自転車は自転車メーカーではないトヨタ紡織が開発したもの。

こうしてみると、トヨタは水素の燃料電池モビリティを幅広く作っていることがわかる。