しっかり寝たという充足感が得られない。その原因は枕元のスマホにあった。寝室にスマホがあるのとないのでは、朝の目覚めがまったく違うと脳科学者が解説する。

書類を読むのがつらくなっている人は要注意

ぐっすり眠るためには、ベッドに向かう前にスマホを手放すことが欠かせません。

科学的にわかっていることとして、私たちがスマホを見ているときには、大脳の前頭葉にある前頭前野に抑制がかかっています。この前頭前野はモノを考えたり、記憶したり、学習したりするときに働く場所です。つまり脳が心地よさを感じていて、前頭葉の働きが下がっているということ。これは薬物を摂取した際にドーパミンが出て、心地よいという感覚を得ているときと脳の現象としては同じになります。スマホ依存になりやすい準備状態を引き起こしていると考えて、間違いありません。

こうした現象を引き起こすスマホが、子どもたちの大脳の発達を妨げることは明確なデータでわかっています。私は仙台市の小中学校に通う児童・生徒を対象に、のべ7万人の生活習慣と学力の追跡調査を10年以上行ってきました。その結果からも、スクリーンタイム(平日一日当たりのテレビ、スマホ、ゲーム機などの画面の視聴時間)が1時間を超えてしまうと、極端に学力が低くなるということも明らかになっています。

子どもにこれだけの影響を与えるスマホが、大人に何もないわけはありません。特に外部からさまざまな影響を受けやすくなる、50代以降の中年期の方々は注意が必要です。世間一般では働き盛りとされる世代ですが、脳科学では違った位置付けになります。

アルツハイマー病の原因物質となる、たんぱく質の「アミロイドβベータ」の話をしましょう。脳のゴミともいえるこの物質は、実は40代から溜まり始めるのです。表面上は元気に活動している50代でも、脳はどんどん脆弱な状態になっています。さらに年を重ねた高齢者となると、子どもに次いで影響を受けると考えるべきです。高齢者は何らかのネガティブな影響が起きたとき、カバーしきれなくなるからです。毎日をギリギリの状態で飛行しているのが、何かをきっかけについに墜落してしまうというイメージを持ってもらえるといいです。

まず、スマホ依存になっていないか自覚症状を探ってみましょう。一つ挙げるとすれば、活字を読むことが苦手になっていることです。読書ができない、書類をしっかり読み込むのがつらくなっている方はいないでしょうか。

SNSでは短い情報がやりとりされます。X(旧ツイッター)の投稿も、インスタグラムのリール動画も短いものです。そのため、人々の思考は短期決戦型になっています。そんなSNSの世界に浸かり、スマホにべったりとなると集中力が10秒や20秒しかもたなくなります。5分、10分の集中が必要となる読書ができないのです。

そもそもプラットフォームとして、紙とスマホなどの画面で見るのとでは脳の働きに明確な違いが出ます。紙だときちっと脳が働く一方、デジタル媒体だとあまり働かないのです。これは別に新しい情報ではなく、パソコンが世の中に普及した1990年代後半から心理学的に言われてきました。私自身の体験でも、お伝えできることがあります。新しい物が好きなので、さっそく電子書籍リーダーを入手し、使ってみました。けれども、読書がまったく面白くなく、すぐに手放してしまったのです。画面で見ていることに加え、読み返しがしにくいという難点が大きかったのですが、以後は紙で読書を楽しんでいます。

脳への影響はいろいろと指摘できますが、それでもいまさら、スマホを持たない生活を送るのは難しいでしょうし、SNSから離れたくない人もいるのはわかります。だとしたら、やはり夜間の使い方に注意をして、睡眠への悪影響を避けたいところです。スマホを睡眠前のぎりぎりまで使うのはもちろん、就寝1時間から2時間前までのスマホ使用でも、睡眠には悪影響が出ると言われ始めています。特に最初に訪れる深い眠りが続きづらくなってしまうのです。

「21時を過ぎると連絡がつかない人」でいい

聞いたことがあると思いますが、われわれの脳は睡眠中、深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠を繰り返します。そして通常であれば、寝てすぐに来るノンレム睡眠が一番深い睡眠となり、脳や体の疲れをとってくれます。ところが就寝1時間から2時間前までスマホを使ってしまうと、この大事なノンレム睡眠が深くならないと指摘されているのです。結果として、しっかり寝たという充足感が得られなくなってしまいます。

(構成=富岡悠希)