街には目に見えないさまざまな境界線がある。隣り合う住民はどんな思いを抱いているのか。鉄人社編集部がまとめた『調査ルポ この日本の片隅で』(鉄人社)の中から、水害の安全地帯と危険地帯、タワマンの高層階と低層階の住民それぞれの本音を紹介する――。(第2回)
“水没地域”の本音
【境界線のあっちとこっちに横たわる内なる差別意識を調査する】
この世は格差社会だ。1本の道で隔たれた高級住宅街とあばら家の密集エリアでは明らかに貧富の差があり、そこには内なる蔑みや妬みが存在していることだろう。実際のところ、彼らは互いのことをどう見ているのか。種々様々な境界線に足を運び、両サイドのナマの声を聞いてみた。
ケース①水害の安全地帯と危険地帯
東京・江戸川区は両側を荒川と中川、そして江戸川と、3つの一級河川に挟まれた土地だ。
江戸川区作成のハザードマップによれば、その河川のいずれかが氾濫した場合、ごく一部を除きほぼ全域が水没すると示されている。つまり、そこに水害セーフと水害アウトの境界線が浮かび上がるわけだ。
大雨による洪水被害が全国各地で多発している最近のご時世。これまで以上に、互いのことを意識しているに違いないまずは水害セーフ地域から調査を始めるべく該当エリアへ足を運んだところ、一瞬にしてここがセーフである理由がわかった。
周辺と比べ、地面が8メートルほど高くなっているのだ。なるほど、これなら河川が氾濫しても水没など起きようがない。キレイに区画された街中をブラブラ歩いていると、前方から子連れの若ママ風がやって来た。
「こんにちは。つかぬことお聞きしますが、この辺りにお住まいの方ですか?」
「ええ、そうですけど」
「住み心地はどうです? 実は近々この辺りに引っ越しを考えてるんですけど、江戸川区って川に挟まれてるじゃないですか。最近、水害のニュースが多いからちょっと心配で」
「ここなら大丈夫ですよ」
さらりと断言した。やはり安全エリアだという自覚はあるのか。

