近年のヒットを支えている2つの顧客層
ごはんやおやつを与え、一緒に遊び、うんちをすれば掃除をし、まめに機嫌や体調をチェックして、ときには病気を治してあげたりもする。世話を怠れば機嫌を損ねるだけでなく、最悪の場合は死んでしまうことも。そんな手のかかるバーチャルペットを育てる携帯電子玩具、それが「たまごっち」だ。
バンダイがこの玩具を世に送り出したのは1996年。手のひらサイズでたまご形の見た目もかわいらしく、発売されたとたん女子高生を中心に一大ブームが巻き起こった。平成初期の懐かしいアイテムとして、覚えている人も多いのではないだろうか。
しかし、どれほど爆発的にヒットしても、ほとんどの商品は数年も経てば忘れ去られて消えていく。そんな中、たまごっちは3度もブーム終焉からの復活を遂げ、誕生から29年目の今も進化しながら発売を続けている。
現在は第4次ブームのただ中にあり、2025年7月31日時点で国内外での累計出荷数がついに1億個を突破。近年の快進撃を支えているのは、20代女性、30代~40代前半の女性の2つのユーザー層だ。
バンダイ常務取締役でCTO(チーフたまごっちオフィサー)の辻太郎さんは、2つの層を「96年の第1次ブームと、00年代初頭の第2次ブームを経験した方々」と分析する。
「前者は、今では新製品をお子さんに買ってあげるなどして親子で楽しんでくださっています。後者は、当時の復刻版を“平成レトロ”を感じさせるファッションアイテムとして鞄などにつけてくださる方が多いですね。特に韓国アイドルの方がSNSで取り上げてくれてからは、20代女性の間での流行が加速しています」
社内の誰もが「売れない」と思っていた
そんな長寿商品も、実は企画が持ち上がった当初は社内の誰もが売れないと思っていたという。辻さんもその一人で、「今思えば見る目がなかったですね」と苦笑する。
圧倒的な女性人気を誇るたまごっちだが、意外なことに企画したのは当時辻さんも所属していた男児向け事業部。そのころバンダイの業績は不振続きで、「本当につらい日々だった」と振り返る。
何とか打開策をとアイデア会議を重ねる中で出てきたのが、「変な生き物の育成あそびができる腕時計」だった。売れないだろうと思いながらも市場調査を進めたところ、男児より女子高生に受けそうだとわかり、急遽大幅な方針転換を決定する。男児向けにつくるのをやめ、女子高生向けに全振りすることにしたのだ。
コンセプトである「たまご形のウォッチ」から、すでにたまごっちという商品名もつけていたが、これも女子高生がスクールバッグに着けやすいように、ボールチェーン型に変更した。

