「わが家のかけがえのない体験となりました」とわが子の中学受験を振り返る脳科学者の瀧靖之教授。子供も伸びて親も楽しい瀧家の中学受験とは。脳科学的に正しい勉強法も紹介。

わが家の中学受験は息子の意向で始まりました。

受験率がとても高いエリアだったこともあって、周りのお子さんたちも自然と小学3年生や4年生で塾に行き始めます。それを見て、息子も「僕も行きたい」と言ってきたのです。

瀧 靖之さん
瀧 靖之さん
東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。
早生まれの息子の中学受験を体験。近著に『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新社)など。

そこから、中学受験とはどういうものなのかを調べると、すべてが新鮮な驚きでした。四谷大塚やSAPIX、早稲田アカデミー、日能研などの大手塾が競い合い、子供たちは教科書のレベルをはるかに超えた学びをしていました。

野球やサッカーには、将来、プロを目指す子のための育成の仕組みがありますよね。もっとがんばりたい、上を目指したいという子たちの選択肢がある。それと同じように、いわば“勉強のプロ”を目指す子の道があるのだな、これは面白いなと思ったのです。もちろん選ぶも選ばないもご家庭の自由。選択肢があるということが素晴らしいと思ったのです。

中学受験の勉強は難しいです。わが家も、相当てこずりました。まだまだ幼い小学生が高度な問題に取り組み、長丁場で学び続けなくてはならない。ある意味では、大学受験よりも大変かもしれません。

それでもわが家の場合、大変だったことを差し引いても楽しかったし、やってよかったと思っています。

子供の受験にどのようにかかわったのでしょうか?

かなりしっかり伴走しました。といっても勉強を管理してやらせたり教え込んだりしたのではありません。横に座って一緒に勉強したのです。

脳にはミラーニューロンという模倣に特化した神経細胞があります。ほかの人の動作を目にしたときに、それを記憶して鏡のようにまねをするシステムが備わっているのです。行動だけでなく感情も模倣することがわかっています。

親が楽しそうに問題を解いていると、子供も楽しくなってくる。やりたくないことでも、楽しそうな人と一緒にやっていると、こちらも楽しくなってくることってありますよね。

ポイントは、上から目線で教えるのではなく、あくまでも横並びの関係で、一緒に問題を解くこと。

このやり方の一番いいところは、親が「叱れなくなる」ことです。

小6の夏休みなど、私は朝から一緒に8時間以上も勉強していました。子供は塾でもっと勉強している。それがわかると、たとえ多少成績が振るわなくとも叱ることなどできなくなる。むしろ、よくやっているな、と尊敬の念が芽生えました。

私は中学受験で、「愛着形成」と「コミュニケーション」と「勉強」という3つのプラスがあったと考えています。小学生の3年間を息子とともに濃密に過ごした時間は、かけがえのないものとなりました。また、天気や地理や文学など、さまざまな知的な会話ができたことも、互いの刺激となりました。

【図表1】瀧教授が考える「3つのプラス」

もちろん、忙しい親御さんがみな、私と同じように伴走することは難しいかもしれません。

その場合、気を付けていただきたいのが、結果だけを見て子供を責めてしまうこと。模試の点数や偏差値、クラスが落ちたとか、そういった結果が気になるのはよくわかります。ですが、そこだけを見て子供の尻を叩くのでは酷です。

中学受験は子供にとって成長のチャンスですが、日々叱られるばかりでは自己肯定感を下げるだけになってしまいかねません。それでは、受験自体もうまくいかなくなってしまうでしょう。

結果や数字は気になっても、何も言わないのがベストだと思います。結果だけに着目するのではなく、そこにいたる努力を評価してやる。成績が伸びたタイミングに、毎日の勉強をしてきたことを褒めてやる。がんばれば成果につながると子供が実感すれば、意欲が芽生えます。

おすすめの勉強法は?

親の接し方は、ティーチングではなくコーチングが一番。教えるのではなく、共に学ぶのがいい。私もつい教えたくなることもありました。でも、ご安心ください。5年生の後半くらいから内容が難しくなり、親のほうが解けなくなります。

そこで、わが家では大きなホワイトボードを買って、息子に教えてもらうことにしました。「なんでこんなのが解けないの?」などと言いながら解説してくれたのですが、これがよかった。なぜそうなるのか原理がわかっていないと人に伝えられないですよね。旅人算とか峠算などの特殊算や図形の合同条件なども、あいまいに覚えていると、話しているうちに論理が破綻するから人に教えられません。

感覚でなんとなく解いていたら、応用問題になると通用しません。楽器演奏や運動もそうですが、感覚だけでやっていると、それ以上伸びない壁が来ます。根拠をもって論理的に考えることが大切です。そのためにも、ほかの人に教えるということはとても大切な学びになります。

中学受験の勉強量は膨大ですから、辛い勉強にしないことも大切です。「算数は生まれつきのセンス」という人がいますが、そんなことはなく経験の差だと思います。

算数が得意な子は実は、パズルのような感覚で面白いからと、いつまでも問題を解いていたりします。算数を“やりこむ”ためには「面白い」と思えるのが大事。親がマインドセットをつくってやるのが大切です。間違っても「お母さんも算数は苦手」などと言ってはいけません。

ほかにも、歴史の年号など、どうしても覚えなくてはいけないものもあります。

わが家では、クイズ形式にしていました。クイズ番組で使われる「ピンポン」と音の出る押しボタンを買ってきて、「ロシアのラスクマンが来たのは何年でしょう?」などとやりました。間違えると「ブー」。

大変な勉強は、親子で一緒に楽しくやればいいのだと思います。

国語については一朝一夕ではできるようになりません。時間をかけることが必要です。文章から想像してイメージを心のなかにつくるという経験をたくさんすることが大事です。

そのためには、読書を小さいうちから可能な限りしておくことです。わが家では、生まれたときから読み聞かせをしていました。

親が「読みなさい」と言っても子供はやらないので、寝る前の30分は家族で読書する時間にしていました。

おかげで中学受験の勉強では、読むことには苦労しませんでした。