大阪王将の「冷凍餃子」が好調だ。主力商品の「羽根つき餃子」シリーズの売り上げは、2015年の約27億円から10年間で約183億円に成長。長年、冷凍餃子業界トップだった味の素(※)を抜き、23年以降はシェア1位となっている。なぜ後発の「大阪王将」がトップの座を奪取できたのか。大阪王将を運営するイートアンドホールディングスの仲田浩康社長に取材した――。(聞き手・文=冷凍食品マイスター タケムラダイ)
大阪王将を運営するイートアンドホールディングスの仲田浩康社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
大阪王将を運営するイートアンドホールディングスの仲田浩康社長

味の素の牙城「冷凍餃子市場」に起きた異変

「大阪王将」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

中華料理チェーン「大阪王将」を運営するイートアンドホールディングス(HD)が、日本の冷凍餃子市場のトップに君臨していることを知らない人は多いかもしれない。

冷凍餃子市場を圧倒的な存在感で牽引していたのは味の素冷凍食品(以下、味の素)だった。1972年からいち早く冷凍餃子の販売をはじめ、半世紀以上にわたって不動の地位を築き上げてきた。

しかし、イートアンドHDがその地位を揺るがせることとなる。主力商品の「大阪王将 羽根つき餃子」シリーズの売り上げは、2015年の約27億円から10年間で約183億円まで成長。23年に市販冷凍餃子の市場シェアで初めて1位を獲得し、最新の24年においても連続でトップを維持したのだ(インテージSCI)。その結果か、味の素はパッケージから「日本一」の表示を外した。

【図表】「大阪王将 羽根つき餃子」シリーズの売り上げ推移
「羽根つき餃子」シリーズ全体の売り上げは約183億円。10年間で678%伸長(編集部作成)

イートアンドHD(大阪王将)が後発ながらトップシェアに躍り出た背景には何があるのか。仲田浩康社長にヒットの理由を聞いた。

大ヒット誕生のきっかけは「若手社員の一言」

「大阪王将」の冷凍餃子が支持される理由として、仲田氏がまず挙げたのが「油いらず・水いらず・フタいらず」で、調理が簡単なことだ。

冷凍餃子業界でいち早く「油いらず・水いらず」の調理法を実現したのは味の素だったが2018年、大阪王将はさらに一歩進んだ。油も水も使わないだけでなく、フタさえも不要にしたのだ。フライパンで焼く際にフタをしなくてもきれいに焼き上がる独自製法は、特許も取得している。

開発のきっかけは、若い男性社員の何気ない一言だった。仲田氏が振り返る。

「『独身者は家にフタがない』と言うんです」

鍋やフライパンのフタを持っていない一人暮らしの層が多数いることが判明したのだ。さらにアンケート調査を行ったところ、「餃子を料理する上で最も面倒なのはフタを洗うこと」という声が多く寄せられた。そこで、「フタいらず」で焼ける餃子を開発しようという発想が生まれた。

こうしたエピソードは、同社の「風通しのよさ」を象徴している。チーズ餃子やニンニク多めの餃子など、ユニークなヒット商品の数々も若手社員が開発したものだ。

「中途採用の社員はびっくりしますよ。新卒者がいきなり社長室に入ってきて、話しているんですから」(仲田氏)

イートアンドHDで商品開発に携わる社員は20人ほど。同社は後発のため、他社と比べて人数が少なく、年齢層は若い。だが、少数精鋭だからこその“機動力”は武器となっている。

「他の大手メーカーと比べたら、何十分の一の人数しかいない。それでも『フタなし』の餃子を半年で作ってほしいと言ったら、半年でちゃんと作ってくれる」

※2000年10月から冷凍食品事業を分社化して味の素冷凍食品