ごはんに“巻いて食べる”ふりかけがSNSで注目を集めている。常識破りの商品を生み出したのは、ふりかけメーカー・田中食品。明治時代に日本初のふりかけを作り、世に出した広島の老舗が、30年の試行錯誤を経て完成させた。なぜ「巻くふりかけ」を作ったのか。インタビューライターの池田アユリさんが、社長の田中孝幸さんに取材した――。
5代目社長・田中孝幸さん。
筆者撮影
5代目社長・田中孝幸さん。

「ふりかけ」だけど、ふりかけない

広島県廿日市にある宮島口フェリー乗り場に隣接する商業施設「etto」。ここで、ふりかけを“巻いた”おにぎりが食べられると聞いて向かった。

広島県廿日市にある「etto」では、「巻くふりかけ」が食べられる「旅行の友本舗」がある
筆者撮影
広島県廿日市にある「etto」では、「巻くふりかけ」が食べられる「旅行の友本舗」がある

ふりかけといえば、ご飯にサッとふりかけるもの――。しかし、この「巻くふりかけ」は、その名の通り“ふりかけない”。ご飯に重ねたり、おにぎりの海苔のように巻いたりするのだ。特殊な技術で加工されたシート状のふりかけは、素材の味そのもの。国産の材料で作られ、表面はサラリとしていて、まるで柔らかな海苔のようだ。

店頭には、鮭、広島菜、赤しそで巻いたおにぎりが並ぶ
筆者撮影
店頭には、鮭、広島菜、赤しそで巻いたおにぎりが並ぶ

「簡単にお弁当をカラフルにできる」「デコレーションしやすい」「巻いても割れないから安心感がある」と、2020年の発売以来、SNSではデコ弁やキャラ弁の素材として人気を集めている。鮮やかな彩りのおにぎりは食欲をそそり、思わずかぶりつきたくなる。

店内を見渡せば、「広島ちりめん」「呉カレー風味」といったご当地ふりかけから、サラダ用ふりかけまで、スーパーでは見かけない珍しいふりかけがずらりと並ぶ。これらの商品を開発したのは、125年の歴史を持つ広島市の「田中食品」だ。

いったいなぜ、老舗のふりかけメーカーが市場にない一風変わった商品を開発しているのだろうか?

広島市西区にある田中食品の本社ビル
筆者撮影
広島市西区にある田中食品の本社ビル

その謎を解き明かすべく、私は宮島から路面電車で田中食品の本社へと向かった。5代目社長の田中孝幸さんに会うためだ。現在40歳の孝幸さんは、テレビで見た通りの穏やかで優しい雰囲気の持ち主。しかし、会話の端々からは、地方企業の「ド根性」がひしひしと伝わってきた。

「世の中にないものを作るっていうのを、1つの使命だと思ってるんです。じゃないと歴史だけにすがっている会社になってしまうんで」

新しい商品を開発する思い、突然の父の死、そして日本で初めて「ふりかけ」を作った企業としての意地――。孝幸さんから見た田中食品の真髄とは?