「ふりかけ」だけど、ふりかけない
広島県廿日市にある宮島口フェリー乗り場に隣接する商業施設「etto」。ここで、ふりかけを“巻いた”おにぎりが食べられると聞いて向かった。
ふりかけといえば、ご飯にサッとふりかけるもの――。しかし、この「巻くふりかけ」は、その名の通り“ふりかけない”。ご飯に重ねたり、おにぎりの海苔のように巻いたりするのだ。特殊な技術で加工されたシート状のふりかけは、素材の味そのもの。国産の材料で作られ、表面はサラリとしていて、まるで柔らかな海苔のようだ。
「簡単にお弁当をカラフルにできる」「デコレーションしやすい」「巻いても割れないから安心感がある」と、2020年の発売以来、SNSではデコ弁やキャラ弁の素材として人気を集めている。鮮やかな彩りのおにぎりは食欲をそそり、思わずかぶりつきたくなる。
店内を見渡せば、「広島ちりめん」「呉カレー風味」といったご当地ふりかけから、サラダ用ふりかけまで、スーパーでは見かけない珍しいふりかけがずらりと並ぶ。これらの商品を開発したのは、125年の歴史を持つ広島市の「田中食品」だ。
いったいなぜ、老舗のふりかけメーカーが市場にない一風変わった商品を開発しているのだろうか?
その謎を解き明かすべく、私は宮島から路面電車で田中食品の本社へと向かった。5代目社長の田中孝幸さんに会うためだ。現在40歳の孝幸さんは、テレビで見た通りの穏やかで優しい雰囲気の持ち主。しかし、会話の端々からは、地方企業の「ド根性」がひしひしと伝わってきた。
「世の中にないものを作るっていうのを、1つの使命だと思ってるんです。じゃないと歴史だけにすがっている会社になってしまうんで」
新しい商品を開発する思い、突然の父の死、そして日本で初めて「ふりかけ」を作った企業としての意地――。孝幸さんから見た田中食品の真髄とは?




