笑福亭鶴瓶さんの「やさしい質問」の秘密
40年以上、私は開発途上国支援の現場で活動してきました。しかし、長い間、援助がうまくいかない壁にぶつかり続けていました。
村に井戸を掘っても、半年後にはゴミだらけ。橋をつくっても適切にメンテナンスされない。私たちは「途上国の人たちは主体性がない」「依存的だ」と嘆いていました。しかし、真の問題は、私たち援助する側にあったのです。
村に入ると、私はいつもこう聞いていました。「みなさん、近頃どういう問題を抱えていますか?」――今考えると、この瞬間に与える側と与えられる側の関係が固定化していたのです。私は「この村には問題があるはずだ」という思い込みを押しつけ、「みなさん自立してください」と勝手に解決を促していました。
転機は、師であり盟友でもある和田信明さんと一緒にラオスの村を訪ねたときでした。彼の質問の仕方は私とは全く違っていました。
村に着くと、和田さんは「問題は何ですか?」とは聞きません。その辺に転がっているものを指して「これは何ですか?」と聞くのです。農器具だとわかると、「材料は何ですか?」「誰がつくったんですか?」「やり方は誰に習いましたか?」と質問を続けます。
こうして事実だけを淡々と聞いていくうち、それまで見えてこなかったものが見えてきました。外国政府が進めている植林事業について、「樹木の種類は誰が選んだんですか?」と聞くと、専門家が3種類提示してそこから村人が選んだと言います。ところが、「あなたたちが大事にしてきた木はその中に入っていましたか?」と尋ねると、「入っていません」と言うのです。村人にとって愛着のない木を植えても、手入れをするはずがありません。だから植林地は放置され、育たなかったのです。
このとき、私は気づきました。「うまくいかなかったのは、村人のせいでも、援助のせいでもなくて、自分のコミュニケーションが間違っていただけなのだ。自立を妨げていたのは、自分だったのだ」と。
正しく問わないと、正しいコミュニケーションはできない。この単純な真理に、私は20年の歳月を経てようやく気づいたのです。
和田さんが村で行っていたのは、相手の思い込みや考えではなく、「これは何ですか?」「誰がつくったんですか?」「どこで切ってきたんですか?」といった事実だけを聞く質問でした。その後、和田さんの妙技を分析し、誰でも使える質問術として体系化しました。
なお、こうした事実だけを聞く質問をうまく活用している有名人が、笑福亭鶴瓶さんです。NHKのバラエティ番組『鶴瓶の家族に乾杯』で、彼は日本各地を訪れて地元の人たちと交流する際、よく「これ、何?」「どこ行くの?」「一緒に行っていい?」といった質問から入っていきます。テレビで見ているスターが突然目の前に現れれば、浮き足立ってうまくコミュニケーションが取れないかもしれません。しかし、鶴瓶さんは誰でもすぐ答えられるやさしい質問をしながら、地域の人たちとしなやかに打ち解け、関係を築いていくのです。
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