ジャック・シラク元大統領、フランソワ・オランド現大統領などの大物政治家、ジャック・アタリといった知識人など、フランスのエリートを輩出してきた学校(グランゼコール)が、国立行政学院(通称ENA)である。年間の定員が約100人程度の最難関校における教育とは、どのようなものだろうか。

――今、米ハーバード大学や英ケンブリッジ大学などで、世界的な人材を巡る「知の争奪戦」が繰り広げられています。
国立行政学院(ENA)・校長 
ナタリー・ロワゾー氏

ENAは、世界トップクラスの教育機関です。これは、フランスの最難関校だから当然、という傲慢さからくるものではありません。フランスやヨーロッパ、海外の大学との連携を強めながら、「知とイノベーションの深化」を掲げて、ENAの競争力を強化しています。

――ENAには「良家の優秀な子弟以外お断り」という閉鎖的な印象があります。

ENAに入学するのが非常に難しいのは事実です。将来のリーダーを育てるために、優秀な人材を確保するのは当然ですが、同じ家柄の人間ばかりが集まるのは問題です。戦前のフランスでは、重要なポストは世襲制に近い状態でした。1945年の開校以来、ENAは、入学試験を課すことで、さまざまな社会層の子弟を入学させ、彼らがリーダーとなって、社会を活性化させてきました。

ENAでは、学費は全額国が負担し、学生を公務員とみなして給料を支払います。一方、米国の名門大学の学生は、授業料を払うために借金をして、卒業後に十数年かけて返済する人も多いです。

――ENAは官僚育成、ビジネススクールは利益の追求で、目的が違いませんか。

官僚の育成だけがENAの使命ではありません。ビジネススクールで教えるような財務諸表の作成、産業分析、マーケティング、交渉術など、多国籍企業が必要とする授業もあります。もちろん、官僚育成のための、国の財政、行政、法律、外交に関する授業もあります。特に後者は、社会と経済の基盤を強化し、経済活動を推進し、国民の生活を保障するための学問であり、ビジネススクールでは学べない内容です。