国や自治体が提供する助成金や補助金制度などのように、国内の経済状況に応じて税制にもさまざまな優遇措置があります。ただ、制度はあっても、多くの経営者がその存在を知らないまま節税の機会を逃しているのが現実です。そこで、税制優遇のなかでも節税効果が高い、「所得拡大促進税制」と「中小企業経営強化税制」について紹介します。

社員の給与アップを税制で支援する「所得拡大促進税制」

「所得拡大促進税制」とは、社員の給与アップや新規雇用によって、雇用者給与等支給額(役員を除く従業員の給与の総額)が前年度より増えた場合、要件を満たせば法人税額等の最大20%が控除される制度です。以下に要件をまとめました。

この制度、以前は既存従業員の給料アップが前提だったのですが、現在は新規雇用だけによる雇用者給与等支給額のアップでも適用されています。

また、上記の通り、アルバイトも含む雇用者給与等支給額が前年度比で2.5%以上増加すれば、その30%分が法人税額等から減免され、さらには、社員研修などの教育訓練費の増加で最大40%にまで上昇します。例えば、起業して1年目は社長ひとりで、2年目から従業員を1名、年収300万円で雇って研修を行ったとすれば、最大でその40%の120万円の免税効果が生まれるというわけです。(※その年度の法人税額の20%が限度)

もちろん、従業員の人件費アップですから、節税で手元のお金を増やすことが目的なら、人件費の支出で逆に損をしてしまいます。これは、給与を高めて従業員のエンゲージメントを高めたり、人を増やして事業を拡大したりする過程で使える節税策であるということを念頭に置いておきましょう。

ただしこれは、中小企業向けの制度であり、大企業には同様の控除額や諸条件等が異なる制度があります。

大幅な節税効果が期待できる「中小企業経営強化税制」

「中小企業経営強化税制」は、事業上の設備投資に節税を絡めた制度です。対象となる設備は機械装置、工具、器具および備品、建物付属設備、ソフトウエアで、要件を満たせば以下の税制優遇が受けることができます。

❶投資額の即時償却(減価償却限度額関係なしに年度内で全額を経費に計上できる)
❷投資額の7%または10%※の税額控除
※資本金3,000万円以下の法人や個人事業者

❶の即時償却は、年度内の経費を高くできる点こそメリットですが、経費の計上を前倒ししているだけに過ぎず、本来の減価償却のままでも計上できる総額の経費額は変わりません。一方、❷の税額控除は免税です。例えば、300万円の設備投資を行うと最大30万円が法人税から控除されます。

要件については以下の通りです。

わたしのクライアントでは、A類型、B類型を活用されるケースが多いようです。それぞれの要件に見合う設備について「経営力向上計画」を作成し、確認者の認定を受けてください。A類型の「工業会等」については、該当する団体について購入する設備メーカーに確認をし、証明書をもらいましょう。そのほかは、経済産業局の認定を受けます。

なお、B類型については、要件にあるとおり「経営力向上計画」に加えて「投資計画」も作成する必要があります。また、そのほかの要件として以下に注意してください。

・生産等設備を構成するものに限る
つまり、事務用器具備品、本社や寄宿舎等に係る建物付属設備、福利厚生施設に係るものなどは該当しません。あくまで、生産現場の生産性向上、利益率向上に係る設備が対象ということです。
・国内への投資であること(海外メーカーの設備などはNG)
・中古資産や貸付資産でないこと(新品の購入のみ) など

「事前確定届出給与」で役員賞与を経費に落とせる

最後に、税制上の優遇措置ではありませんが、役員賞与を経費にできる「事前確定届出給与」の特例についてお伝えしましょう。

「社長は賞与をもらうことができない」。意外とそう考えている人も多いのですが、その認識は誤りです。役員だって、賞与を得ることは問題ありません。ただし、法人税法上の原則として「損金不算入」、つまり役員賞与を取ることは可能だが、経費に落とせないということなのです。それで「社長は(損するから)賞与をもらえない」と考える人が多いのでしょう。

しかし、これはあくまで原則であり、経費に計上するための特例が「事前確定届出給与」なのですが、実際はあまり浸透していません。なぜなら、ルールが厄介だからです。要件は以下の通りです。

❶株主総会の決議(議事録の作成)

株主総会で社長をはじめ役員が賞与をどれくらい取るのかを決議し、その議事録を保存する必要があります。

❷「事前確定届出給与に関する届出書」を期限内に提出する

決議した内容に沿って、付表と合わせて2枚の書面を提出します。国税庁が提供しているフォーマットは、以下から取得することができます。https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/5104.htm

届出書には、株式総会の実施日や執行開始日などを細かく記載し、付表では事前確定届出給与を支給する役員や、支給時期、支給金額等について明記します。

❸記載内容通りに役員賞与を支給する

事前確定届出給与は非常に厳格です。届出に明記した通りの支給日、金額を支給しないと、経費への計上を全額否認されてしまいます。「忙しくて1日遅れてしまった」というだけで全額否認ですし、資金繰りが厳しくなってしまったので金額を変更したい場合も、1円でも変わったらその時点でアウトです。

ただし、やむを得ない事情があれば事前に変更届を出すことは可能です。役員の昇格があって賞与の額面を変更したい、あるいはコロナ禍のような致し方ない業績悪化要因がある場合は、額面の変更が可能です。ただ単に資金繰りが悪化しているといった理由では、変更は難しいので注意してください。

予測不能な会社経営において、そこまで資本に余裕があるわけでもなければ、要件の柔軟性のなさがネックになります。そこが、事前確定届出給与に人気がない理由なのでしょう。

以上、3つの税制優遇と特例を紹介しました。国や自治体の補助金制度もそうですが、税制優遇や特例を受けるための整備や、届出などの申請は非常に面倒なものが多いのは事実です。しかし、その情報をしっかりキャッチし、コツコツと取り組んでいくことで大きな節税効果を生み出し、手元に資金を残すことができます。

多くの中小企業をクライアントに持つ税理士は、こうした情報の提供や申請のサポートを行うことができます。制度によっては、税理士などのサポートを受けないと困難なものもありますので、顧問税理士の契約の検討や、定期的な税理士との面談機会を重視していただき、よりよい経営を目指してください。

(構成=岩川悟、吉田大悟 図版作成=木村友彦)