大宮は、自ら進める改革の中で「自前主義に固執することを捨てよう」と提唱し続けてきた。それを裏付ける1例がある。今年3月、三菱重工と今治造船が、LNG(液化天然ガス)運搬船の設計、販売を手がける合弁会社「MI LNGカンパニー」を設立すると発表した。“門外不出”の技術開発のノウハウを、三菱重工が今治造船に提供することを決めたのだ。
三菱重工の海外への進出も加速している。川崎重工業が中国、ブラジルへ。IHIがブラジルへと進出する中で、三菱重工もインドへの進出を決めた。手探り状態での進出だ。新しい造船所を建設するとなると、造船が関わる産業の裾野の広さ、地域の雇用に関する問題などがあり、簡単に解決できる話でもない。しかしながら、背に腹は代えられない事情があった。ものづくりの現場にとって、1番大切な「技術の伝承」をどうするかだ。
長崎造船所に常駐する尊田雅弘船舶・海洋事業本部事業本部長代理に、「客船プロジェクト室長」のタイトルが付け加えられたのは、昨年のことだ。
02年10月、竣工前に火災を起こした「ダイヤモンド・プリンセス」。11年11月、新たにダイヤモンド・プリンセス以来となる大型客船の受注に成功し、今年6月から鋼板の切り出し作業が始まる予定である。前回の手痛い経験から約11年たち、ダイヤモンド・プリンセスより1回り大きい12万5000トンの大型客船建造が成功するかどうか、尊田にかかっている。大型客船建造に必要な部品点数は1200万点にも及ぶ。LNG船の建造に必要な部品点数は、約50万点だから、船上に“ホテルを建設する”大型客船は、LNG船の24倍。想像を絶する物量である。
「技術の継承は約10年が限界です。今回の受注が2、3年先であれば、果たしてうちで本当に造れたかどうか……」
尊田がこう言うように、今回の大型客船の受注は、「技術の継承」においても、ギリギリのタイミングだった。説明をしながらも尊田の表情は、心なしか強ばっている。それはそうだろう。1200万点という部品点数を前に、失敗が許されない緊張感が、尊田の身を硬くしている。