「果たして無事にできるのだろうか」

と自問自答する尊田。「設計は? 部品のロジスティクスは? スケジュールの管理は? 設計に変更があった場合は?」。考え始めると、際限もなく心配事が噴き出てくる。使命の大きさをひしひしと感じる尊田にとって、心の支えとなるのが、三菱重工という歴史のある会社に蓄積され続けた「経験、知見」だ。

三菱重工が主たる幹事役として受注し、07年に開業した台北-高雄間を結ぶ台湾高速鉄道(台湾新幹線)がある。同巨大プロジェクトを通じて、三菱重工が得たノウハウ、経験は計り知れないという。

「大宮社長からの助言もあり、台湾新幹線の成功例を参考に、経験の蓄積を持つエンジニアリング事業などから、様々なアドバイスをもらっています」(尊田氏)

現在、アジアで大型客船を造れるのは、この長崎造船所だけである。中国でもなければ、韓国でもない、長崎に伝わる戦前からの技術の蓄積と継承が大型客船の製造を可能にする。今回、尊田たちが心血を注ぎ取り組んできた「ものづくり革新」の結晶が、新たな技術に転嫁され、この大型プロジェクトに投入されている。

MATESで、情報を「視覚化」「共有化」

建造中のLNG船。三菱のマークで「テニスコート1面分」の大きさ。

尊田が期待を寄せるのが、「3Dものづくり革命」を象徴する、三菱重工の船舶・海洋事業本部が自社開発した3D-CAD(コンピュータ支援設計)、「MATES」(Mitsubishi Advanced Total Enginiering system of Ships)である。このシステムを駆使すれば、今後は極論すると、「プラモデル」を作るように、船舶を造れるようになる。

船舶の設計図は、船舶の階層ごとに何層階にも分かれている。その中に、無数のパイプが存在するが、これまでは平面の設計図から、何階目を走っているパイプかを、見極める必要があった。これができるまで、最低5年はかかっていた。練達の作業員がいなければ、遅々として作業は進まず、安全性にも問題が生じる危険性があった。熟練者でも、パイプを間違えて設置した例があり、廃棄処分となるパイプは多かった。LNG船に必要な3万本のパイプのうち、設置ミスで2000本程度が廃棄されたこともある。