しかし、今回開発されたMATESで、パイプの配置を変更する率は、以前の20分の1にまで低下したという。

長崎造船所で建造されるLNG船の巨大な球状タンク。

さらに、MATESの特筆すべき機能に「自動チェック機能」がある。メーンエンジンからつながる高圧排ガス管。この排ガス管の上部に、油系統の配管が通されることはない。配管からの油漏れが引火につながる危険性があるためだ。しかし、平面の設計図では見落とされがちな“危険な設計”に関しても、MATESには、間違った設計に対して、異常を知らせる警告音がついている。

昔の現場には、神が宿る技術を持った「匠」がいたが、匠の多くも定年を迎え、現場には“新人”が多くなった。現場にいる人間は、三菱重工の正社員ばかりではない、派遣会社、協力会社の社員が一緒に、製品を作り出しているので、情報の「視覚化」「共有化」が不可欠である。

では、どうすればいいのか。答えが、現場の作業員や主任クラスに、タブレットを持たせ、MATESの“3次元ビューワー”を使って、現場と設計側が共通の画面を見ながら会話をすることだ。タブレットから撮影した写真を送ることで、オンタイムな「設計修正」が可能となる。

タブレットを使って情報をシェアすることで、現場に革命的な変化があった。これにより、造船という特殊な技能中心の世界が、普遍的な“コモディティ”の世界へと変化する。MATESは、長崎の“聖域”改善にも力を発揮している。大型客船の完成は、2年後に迫っている。

「日本のインフラの劣化に心が痛む」

と大宮は言う。国のためにならないが、企業さえ儲かればいい、こうした考えは、三菱重工には無縁だ。企業として利益を追求し続けることは当然のことだが、歯を食いしばっても続けるべき使命もある。だからこそ、使命感を持って仕事をやり遂げるためにも「大きな仕組み、自立的に経営が可能となる仕組み」が必要だった。これも大宮改革最大のポイントだ。