人が好き好んで噂を口にする深層心理って何

私たちは「噂」という言葉を耳にすると、「悪口」「誹謗」「中傷」といったネガティブな印象を抱いてしまう。しかし、マスメディアが存在していなかった中世において、噂は重要な情報の伝達手段だったのだ。

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図1:噂の分類

「噂の語源は『浮沙汰(うわさた)』です。中世の裁判で物事の是非を判断する際には、世間を流れる『沙汰』がその判断材料になっていました。近代になってマスメディアが発達し、信頼できる情報源として認知されていくなかで、情報伝達手段としての噂の相対的な地位が下がり、負のイメージが強くなったのでしょう」と、社会心理を研究する成城大学文芸学部の川上善郎教授は語る。

そんな噂をタイプ別に示したものが図1である。「社会情報としての噂」の最たる例は原発事故による風評だ。科学的なデータの裏付けがないのに、日本の農産物や工業製品が放射能に汚染されているという流言が世界中に広まった。2番目の「おしゃべりとしての噂」が、今回問題としている会社の上司や同僚、そして部下に関するゴシップやヤバイ噂なのだ。最後の「楽しみとしての噂」はいわゆる都市伝説であり、話し手も聞き手も真実ではないだろうとわかっていながら楽しむ怪談話もここに含まれる。

では、問題のヤバイ噂が口伝で広まってしまう仕組みについて見ていくことにしよう。図2は川上教授が自著『うわさが走る 情報伝播の社会心理』のなかで示した心理学者のエドナーとエンキの研究による「ゴシップ・エピソードの基本的な構造」である。

注目すべき点は、ゴシップ話を始める際には慎重な手続きが必要だということ。すぐには具体的な話を切り出さず、「いうのを忘れていたんだけれどもね」「ここだけの話なんだけれどもね」などと始める。相手が「えっ何」と関心を示したら、「実は社長が経理のAさんとデキているって……」というように話をつなぐ。この一連の過程で、社長とAさんというターゲットの“確認”を行い、そのターゲットに「不倫=ふしだら」という“評価”を与えて準備完了というわけだ。