この変革の核心には次の4つの戦略があった。
1.関係を構築する。ネットワークの用語では、関係とはノード(要素)間の接続のことだ。ネットワークとしてとらえると、階層型の関係では接続の数は相対的にわずかである。個人はそれぞれ自分の上司、同僚、直属の部下と関係を持っているにすぎない。したがって、第一歩は、より多くの関係や接続を築くことだ。この変革はまず特殊作戦コミュニティの中で進められた。特殊作戦部門のリーダーたちは、アルカイダという新しいタイプのネットワーク型の敵に後れをとっているという現実に直面しており、したがって自分たちの親善ネットワークの密度と多様性を高めることに力を注いだ。それまで一度も協働したことがなかった組織間の前例のないレベルの協働を計画し、実行したのである。
2.共通の目的を確立する。関係を構築するためには、オフサイト・ミーティングを開いたり、これまでより大規模な会議を招集したりするだけでは不十分だ。人々を協働させるためには、共通の目的が必要だ。すべてのステークホルダー(顧客、コミュニティ、投資家、社員)の利益に同時にかなう目的が必要なのだ。イラクでは、共通の目的は自由と自決の原則にもとづいて国を再建することだった。ネットワークへの移行という米軍の変革を主導したリーダーの一人、スタンリー・マクリスタル元大将は、先ごろ講演で次のように述べた。「命令を与えるのではなく、われわれは今ではコンセンサス、共通の目的意識を築いている」。
3.共通の意識を生み出す。目的地に行き着くためには、まず自分がどこにいるのかを知る必要がある。共通の意識があれば、ネットワークを構成するすべての個人が自分はどこにいるのかを把握し、入手できる最善の情報にもとづいて行動することができる。「情報を融合させたチーム」をつくることで、軍のさまざまな組織と多くの民間組織の間で前例がないほど高レベルの協働が行われるようになり、ネットワーク全体の情報の流れが加速された。世界各地に分散しているこれらのチームが常時つながっていて、共通の意識を生み出す中心点になった。これらのチームがネットワーク全体からデータを集め、その情報を、迅速かつ効果的な行動をとるのに最適な立場にいる人間に流したのだ。
4.異論を奨励する。階層型の関係では服従は美徳であるが、ネットワークでは悪徳だ。服従はグループシンク(集団浅慮)を生み出し、イノベーションや組織の柔軟性を抑え込む。それに対する防御策は、経験、性別、年齢、民族、活動場所、職業など、あらゆる形の文化的多様性を高めることだ。米軍のこの新しい組織横断的協働は、異論が単に許容されるのではなく奨励される環境を生み出した。チームの成員は、反対意見や他の成員に嫌がられる意見を表明しても非難されることはなく、それを表明するのを差し控えたら叱責された。個人は異論を表明する意欲をかき立てられ、リーダーたちはアイデアの自由な交換が安全な環境の中で行われるように、たゆみなく努力した。