難しいところからやるのが大切
日本流「いのべーしょん」のひとつの課題は、目先の改善ばかりに目がいき、せっかくの現場の努力や知恵がこぢんまりとしてしまい、矮小化してしまうことにある。それではせっかくの現場のアイデアや知恵も、独自の競争力や優位性にはつながらない。
現場主導の地道な改善の積み重ねを「いのべーしょん」につなげるには、大きな目標を掲げることが不可欠だ。すぐには到達できない高いゴールを設定することにより、改善は革新につながっていく。
ニット製品を作る横編み機で60%以上の世界シェアを握る島精機製作所は、日本流「いのべーしょん」を実践する好事例だ。現場の地道な改善の積み重ねが、究極の横編み機を生み出している。
先日、ある雑誌の対談で創業者の島正博社長とお会いした。そのとき、島社長は「一番難しいところからやるのが大切」と教えてくれた。目先の改善だけに陥らないためには、最も難易度の高いところに目標を置き、その実現のために地道な努力を積み重ねていくことが肝心なのだ。
島社長は「日経ビジネス」(2011年3月28日号)のインタビューでこう語っている。「ウチは世界初の機械を作り続けることでここまできた。それができなければ未来はない」。この島社長の志が全自動手袋編み機やホールガーメント(縫い合わせ不要の画期的な全自動編み機)など数多くの「世界初」の開発につながっている。現場の地道な改善努力は、「世界初」を生み出すという大きな目標に向かって収斂している。
「日本の会社は改善は得意だが、イノベーションを生み出すことができない」という論調は、日本の現場の底力を知らない人たちの戯言にすぎない。経営者の志と現場力が結びついたときに、日本の現場はとてつもない力を発揮する。日本流「いのべーしょん」を生み出すことができるかどうかは、経営者の志にかかっているのだ。