【伊賀】お話を伺っていると、先進国の人たちはもっと新興国に学ぶべきですね。これまでは新興国の人が先進国に学びにくるのが普通でした。しかし、これからは逆で、先進国の人が新興国で学ぶことが重要になるのではないか、と思いました。
【グラットン】世界レベルの教育機関は依然として先進国にあるので、今すぐとは思いませんが、近い将来、そうなる可能性は大いにあるでしょう。
すでに、国籍に関係なく優秀な人材がどんどん発掘され、活躍する時代に入っています。先日のダボス会議では、ビル・ゲイツの横に、パキスタンから来た11歳の少女が座っていました。スタンフォード大学の物理学教授が自分の講義をオンラインで公開し、世界中に受講生を募ったところ、彼女が応募してきて、全受講生のなかで最も優秀な成績を収めたそうです。わずか5年前であれば、パキスタンの少女が世界最先端の物理学の講義を受けたり、国際会議でビル・ゲイツの隣に座ったりするような機会が与えられることはまったく考えられませんでした。
「才能ある人」を巡る都市間競争が勃発
【伊賀】確かにすごいことが起こりつつありますね。先進国と新興国という国の格差が、才能のある人とない人という人の格差に置き換わっていくのだと。
【グラットン】その通りです。鍵を握るのがまず認知能力です。ある調査によれば、認知能力が高い人はあらゆる国に正規分布しています。もう1つは決断力です。1つのことに集中して取り組むことができるか。これも非常に大切です。
【伊賀】有能な人が注目され、発掘されやすくなっているのは確かだと思います。でもそういう人の行く先がシリコンバレーやロンドンの大学だったりすると、結局、栄えるのはその国ではなく、先進国になるわけです。そういう意味では、国家間競争、都市間競争、大学間競争がますます激しくなると考えていいのでしょうか。
【グラットン】おっしゃる通りです。なかでも都市間競争が激しくなるでしょう。都市づくりという意味で頑張っているのが、都市国家であるシンガポールです。移民を広範に認め、言語を英語で統一し、質の高い学校を次々につくる一方で、住環境整備にも力を入れ、公害も最小限に抑えています。こうした施策が功を奏し、ますます多くの多国籍企業がシンガポールに本社を構えています。