加齢による網膜剝離はじわじわ進行する

ここでご紹介した事例はごく一部で、働き盛りの世代が眼疾患にかかることは決して珍しくありません。これらの疾患が原因で、まったく見えない、あるいは相当に視力が落ちた「視力障害」のある人は想像以上に多いのです。日本眼科医会が2007年に報告した推定値では160万人以上いるとされ、年々増加傾向にあります。

例えば、網膜剝離の発症のピークは20代と50代と言われています。

20代で起こる網膜剝離には、頭や目に衝撃を受けて発症する外傷性のケースが多く見られます。それに対して50代で多いのは、目の硝子体内部が加齢により液化することで突然網膜からスルッと剝がれ落ちるケースです。その際に痛みはなく、硝子体がはがれた箇所で光を感じなくなり、じわじわと視野が欠けていきます。

出所=『近視は病気です

初期症状が「視野欠損」なのは、緑内障も同じです。

数年前に日本のテレビで流れたACジャパンのCMでは、徐々に視野が欠けていく緑内障の症状を、パズルのピースを用いた象徴的なイメージでわかりやすく表現していました。ですが、実際にはあそこまでわかりやすく自覚できることはまずないと思ってください。

緑内障のタイプやステージにもよりますが、多くの場合、10年、20年とかけてゆっくりと視野が狭くなっていくので、非常に自覚しづらいのです。ですが、早く見つけてきちんと投薬を続ければ、今や一生にわたり視力を維持できる疾患となっています。

近視になる原因はスマホやパソコン?

このような眼科疾患にかからないためには、まずはそのリスクを大きく押し上げる要因、「近視」にならないことが何より重要です。

近年「近視」が増加していると書くと、「スマホやパソコンのせい」と反射的に考える人が多いと思います。

しかし、実はスマホやパソコンの画面を見ることが視力を低下させるという科学的根拠は存在しません。確かにスマホ利用に関する研究は多数報告されており、関係があるというものも、関係がないというものもあります。ですが、現段階の最新の大規模研究では、スマホやパソコンと近視の直接的な関連性は否定されています。

さまざまな研究やデータを総合して眼科医として言えるのは、「スマホやパソコンを見ている時間が長くなり、屋外で過ごす時間が削られた結果、近視が増えた」ということです。

つまり、裏を返せば、近視を予防・抑制するには「屋外で過ごすこと」が非常に重要であると言えるのです。