85歳以上で増える認知症、普通の生活はますます困難に

加えて、長生きすれば認知症の発症率も高くなる。

年齢別に見た認知症の発症率は、加齢とともに上昇し、85~89歳では、女性が48.5%、男性が35.6%(研究代表者 朝田隆「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23~24年度)となっている。

これらを考え合わせると、加齢で認知機能も落ち、身体の不自由さを抱えながら、在宅で長寿期を暮らし続ける、そんな人が珍しくない社会になっていくことが見えてくるだろう。

そうした近未来が予測されるなか、いまはまだ元気で自宅で暮らす昭和一桁~団塊世代までの高齢者は、いつまでいまの力を維持できると思っているのだろうか。また、それができなくなったとき、誰に自分の暮らしを補い支えてもらおうと思っているのだろうか。

出典=『長寿期リスク

親の老後について「親子で話し合うことはない」という現実

この世代には「元気で、人の世話にならないことこそ自立」という、高度経済成長期の価値観を保ったままの人や、子どもがいても「親の老後の心配はしなくていい」と子どもを社会に送り出し、「子どもの世話にはなれない、迷惑をかけてはいけない」と考える人が多い。

元気な間の、高齢者のそんな「親子観」を示す調査結果がある(「『親のいま』に関する親子2世代の意識調査」ダスキンヘルスレント、2022年)。

そこでは、親と子の両方の世代に対して、親の老後について話し合った経験の有無を質問しているが、「親子で真剣に話し合った経験がない」割合が圧倒的に多く、親世代で81.6%、「親と別居する」子世代で75.0%を占める。

そして、親世代が子どもと「話し合わない」理由として挙げたものは、「(子に)迷惑をかけたくないから」が90.3%、「まだ健康だから」が89.3%、「自分の子どもに頼ることを想定していないから」が85.5%。この3つが特に多く、他の理由を大きく引き離す事実が報告されている。

しかし、人間にとって「病むこと」「老いること」「死ぬこと」は避けられない。そして、そうなったとき、他の人の力で自分を補い支えてもらい、世話をしてもらう。これも避けられないことである。

出典=『長寿期リスク