極左と極右の類似点を利用して団結力を高める

――「典型的なQの支持者は、白人の保守的なアメリカ人」だそうですね(第6章)。自分たちを「リベラルなエリートに迫害された」存在だと考えており、トランプ氏を「英雄視」してきたと。

おそらく今でも、そうした層が最も主要なQアノン信者だろう。もちろん、数字の裏付けはないが、大半がアメリカの地方に住む保守的な人々で、所得が高い層ではないと思われる。とはいえ、そうしたカテゴリーに当てはまらないQアノン信者も多い。保守的ですらなく、非常に進歩的な思想の持主もいる。彼らの多くと話したが、サンダース上院議員(バーモント州選出、無所属)の熱烈な支持者だった。

彼らは、2016年大統領選・民主党指名候補争いでヒラリー・クリントン氏がどのようにしてサンダース氏を打ちのめしたのか、持論を展開してくれた。「クリントン氏は邪悪な存在だ。何か悪いことが起こってほしい」と。Qアノン信者は必ずしもトランプ派ではないかもしれないが、多くのトランプ派と同様にクリントン氏の失脚を望んでいる。

つまり、Qアノンのようなグループは、「極左と極右の類似点」を見いだして利用し、グループの団結力を高める。

「トランプ敗北」なら暴力は繰り返される

――仮にトランプ氏が負けた場合、連邦議会襲撃の再来など、新たな暴力的事件が起こるのでしょうか。

2021年とまったく同じ事件が繰り返されるとは思わない。タイミングをはじめ、そっくりそのまま再現されるとは考えにくい。だが、何かしら起こる可能性は高い。支持者らはネット上で計画を公表し、準備を進めるため、事前に察知することができる。

当時は電報やツイッター(現X)、チャットを使って計画が進められた。支持者らが連邦議会を目指して集結することは1カ月前からわかっていたのだ。当時、ワシントンD.C.の市長は、予測される抗議集会への警告を発していたが、連邦議会議事堂警察では真剣に受け止めない人が多かった。ネット民の話にすぎないと考え、重要ではないとみなしたからだ。

今回も、暴力や騒乱行為の可能性は間違いなくあると思う。

――大統領選で最大のリスクは何だと思いますか。

最大のリスクは(議会襲撃事件のような)暴動ではなく、組織的で暴力的な事柄がソーシャルメディア上で進み、拡散されることかもしれない。もちろん、フェイクニュースやデマも含めてだ。自分たちの主張を正当化すべく偽情報を流すことには甚大なリスクが伴う。