「弱い駒」が消えていくとゲームにならない

それとは別に、ゲームバランスからの理由があります。日本の将棋には、一つ一つの駒の動きが弱いという特徴があります。

将棋で一番強い駒は、縦横どこまでも行ける「飛車」、その次は斜めにどこまでも行ける「角行」です。これはとても貴重な「大駒」で、それぞれの陣営に、飛車と角がそれぞれ一枚ずつだけ配備されています。そして、飛車・角行以外の駒は、他の将棋類の駒に比べ、周囲に一歩しか進めないなど動きは小さいのです。

これに対して、チェスの駒には、角行に相当する「ビショップ」と、飛車に相当する「ルーク」はそれぞれ2枚ずつ。おまけに飛車と角行の合体した超戦力の「クイーン」まであります。

もしも、駒の動きが弱いにもかかわらず、捕まえた駒を排除していったならば、王様を攻める駒はなくなり、詰ませられない状況になります。これではゲームにならないので、捕まえた駒を復活できるようにした、というわけです。

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繊細さと派手さのどちらも楽しめる

将棋では一つ一つの駒の動きが小さいため、駒が活躍できるようにするには、繊細な工夫を積み重ねないといけません。他方で、駒の動きの小ささが産んだ「持ち駒」のルールのおかげで、将棋には、驚くほど派手な手が登場します。何せ、それまで盤上にいなかったエースが、突然、敵陣の真ん中に登場したりするのですから。

このように、将棋は、繊細さと派手さの両方を楽しめるゲームです。

もう少し視野を広げて、他のゲームと比べたときの将棋の特徴を考えてみましょう。

将棋は、「二人零和有限確定完全情報ゲーム」に分類されます。この呪文のような単語を分解すると、①二人でやる(二人)、②ゼロサム=どちらかの勝ちはどちらかの負け(零和)、③有限の手番で終了する(有限)、④サイコロなどのランダムな要素はない(確定)、⑤お互いに完全に情報が公開されている(完全情報)、という条件を備えたゲームです(将棋は、厳密にはこの条件をたしてないという議論もありますが、普通にやる分には、このタイプのゲームの典型です)。