自己肯定感を無理に高めたときの副作用

一方で、自己肯定感には気をつけておきたいポイントがあります。みなさんが、仕事で失敗し、ドン底の気分に陥っているときのことを想像してみてください。このとき、たいていの方は自己肯定感が下がります。落ち込んでいるときには、自分のことを前向きに考えられないし、自分自身に満足もできません。

この局面で、自分のことをポジティブにとらえることは、至難の業なのです。私たちがもっとも自己肯定感を必要としているそのとき、自己肯定感が下がるのです。このとき、自己肯定感を無理に高めようとすると、先ほど述べたように、副作用が現れることがあります。

じつは、自分が失敗したときに、自己肯定感を高く保つ裏技があります。本当は自分のミスで失敗したとしても、「自分は悪くなく、周りが悪かった」と解釈したらどうでしょう。

「環境が悪かった」「チームメンバーが手を抜いた」などと周りのせいにしておけば、自分の自己肯定感は傷つかずにすみます。この裏技を使い、本当の自己肯定感を追い求めるというよりは、かりそめの、その場しのぎの自己肯定感を高めてしまうことが起きます。

写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

こうしたことを続けていると、自分の過ちや弱点を認めることが難しくなり、謙虚さを失って、ちょっと横柄な感じにもなってしまいます。この傾向が進みすぎると、リーダーは、自分に酔いしれるナルシスト的な言動をしたり、平気で攻撃的な言葉を使ったりするようにもなります。

みなさんの周りにも、こうしたリーダーがいるかもしれません。自己肯定感を無理に高めようとすると、自己中心的に世の中を歪んで見てしまうことになります。この弊害を避けつつ、自己肯定感の果実を得る方法がセルフ・コンパッションです。

自分自身に思いやりを向ける3つのステップ

みなさんが、ドン底のつらい状況に陥ったとき、自信が地に堕ちてしまったとき、希望のかけらも見出せないとき、自分のことをどうしてもポジティブにとらえられないとき、このようなときこそ、セルフ・コンパッションが本領を発揮します。

セルフ・コンパッションには、基本的に3つのステップがあります。それは、マインドフルネス、共通の人間性、自分へのやさしさの3つです。つらいことや落ち込むことがあったときに、大切な友人をやさしく励ますように、自分自身にも寄り添ってあげるのです。具体的なアプローチは、次のとおりです。

①自分がつらいということに気づき、バランスの取れた見方をします。これをマインドフルネスといいます。マインドフルネスとは、「今ここに気づく」という意味です。

②次に、誰でもつらい経験をすることを思い出します。これを共通の人間性といいます。

③そして、最後に、自分にやさしさと励ましの言葉をかけます。これを自分へのやさしさといいます。

このセルフ・コンパッションの3つの流れを実践することで、つらい状況から抜け出しやすくなります。