「高リスク」でも検査費用は保険適用外

物理化学者でニセ科学問題に取り組む小波秀雄氏(京都女子大学名誉教授)は、未承認の「がんリスク検査」の広がりに強い懸念を抱いている。

「未承認の『がんリスク検査』は、がん検診と同じような機能を装っていますが、検査の信頼性は不明確です。こうした検査ビジネスが広がると、がん検診を受ける機会を逃して命を失う人も出てくるでしょう。社会的な影響は深刻です」

ちなみに、未承認の「がんリスク検査」は、自由診療と同じ扱いになる。「高リスク」と判定されて精密検査を受ける際は、原則的に保険は適用されないので、高額な検査費用は、全額自己負担だ。

国内で「がんリスク検査」を提供する会社は、研究開発型のベンチャー企業が多い。急成長が見込める、新しいビジネスとして参入しているのだ。

「がんリスク検査」の開発は、医師ではない基礎研究者が担っているケースも目立つ。線虫がん検査を開発した広津崇亮社長は、東京大学大学院の出身で理学博士である。

HIROTSUバイオサイエンスの広津崇亮社長(PR TIMESより)

専門家が抱く「がんリスク検査」への違和感

国立がん研究センター・検診研究部の中山富雄部長は、基礎研究者が主体で開発していることが、「がんリスク検査」をめぐる問題点の本質ではないかと指摘する。

「開発段階で、1000人前後を対象に実験的な条件下で研究を行なうと、画期的な成果が得られることはよくありますが、これはリアルワールド(実際の治療や検査など)の設定とは異なります。そのため医学の臨床研究は、リアルワールドに等しい条件下で、第三者が評価できるように厳正な手法や手順が定められています。しかし、『がんリスク検査』の大半は、医学の臨床研究の手法から大きく外れていることが問題なのです」

「がんリスク検査」各社のウェブサイトは、高い精度で全身のがんを検出できると宣伝している。だが、中山部長が検証すると、研究手法に問題があるというのだ。

「例えば、がん患者の検体と健常者の検体の割合が、リアルワールドで『1:1000』なのに、『がんリスク検査』では『1:1』で分析している症例対照研究が多い。

実験的な条件や設定が異なる臨床研究で“精度が高い”と主張されても、医療現場では“使えない”と判断するしかありません。『がんリスク検査』の基礎研究者は、リアルワールドのエビデンスを理解できていない、と思うケースが散見されます」

現在、厚生労働省は薬機法の改正に向けて、関係者のヒヤリングを行っているが、日本臨床検査薬協会などが次の要望を行った。

「線虫検査などの郵送検査サービスの提供が安易に行われているが、薬機法の対象外のため、品質、有効性、安全性について担保されていない。規制を検討していただきたい」(2024年5月16日 厚生科学審議会)

将来的には、「がんリスク検査」で確実に早期発見できる時代が来るかもしれないが、現時点では“未完成”と理解したほうがいいだろう。