「路上飲み」をする若者に覚えた違和感

インサイトの発見の仕方はさまざまな手法があります。自分自身のインサイトにじっと向き合うのも手かもしれませんが、ぼくは日常風景の中で「違和感」を発見することがインサイトを見つける早道だと思っています。

人間は不器用なので、自分の欲望をなかなか言語化できないと書きましたが、同じように、他人に説明できないまま自分の欲望を実現する行動に出てしまうことがあります。それが、自らのインサイトに敏感なファーストペンギンたちです。

「あ、あの人たち、今までの価値観だとちょっと説明できない行動をしているな」と違和感を覚えたら、それは新しい「あたりまえ」を実践する人たちの行動である可能性があるのです。

旅行や食事といえば、家族や友人、職場の同僚など複数で行くのがあたりまえだった時代に、「わたしは今、1人でご飯が食べたいの」と思って、1人で高級レストランに行った人は、きっとレストランのシェフに「1人で来客するなんてめずらしい客だなあ」という違和感を覚えさせたでしょう。

そして、そういった客が連続すると、「もしかすると、1人で来客したいと思っている人は最近増えているのかな?」と思うようになるわけで、それが「おひとりさま」というインサイトの発見へと至ります。

最近「ワン缶」といって、缶を片手に路上や公園で飲酒をする若者が多く見られるようになりました。今まで、なかった行動をしている人たちです。

あれ、以前にこの道で、お酒を飲んでる人なんて見たことなかったのに、昨日も今日も、お酒片手に飲んでいる人がいるなんて、ちょっと引っかかるな……。

というような違和感です。

彼らは居酒屋で飲むのを、お金がもったいないなと考えているんでしょうか? どちらかの家で宅飲みをするほどでもない関係なんでしょうか? ちょっとした隙間時間に、気軽にリラックスしたいんでしょうか?

新しい「あたりまえ」の最初の行動を発見する

違和感のある行動をする人たちは、どんな潜在意識でその行動をおこすのでしょうか?

このように日常生活で感じるちょっとした異変や、昨日までは考えられなかった人間の行動に覚える違和感の背後には、新しい「あたりまえ」を渇望するインサイトが潜んでいる可能性があるのです。

嶋浩一郎『「あたりまえ」のつくり方』(NewsPicksパブリッシング)

たとえ、それが偶然の例外的な行動だったとしても、その背後にインサイトがあると思って一旦は向き合ったほうがインサイトハンターとしてはいいのではないかとぼくは思います。

かなり長いこと、博報堂の新入社員研修でタウンウォッチングというものをやっていました。クリエイティブ配属の新人が街に出て、「違和感のある行動をしている人」を見つけて発表するんです。

インスタグラムに足の先だけの写真をあげている人たち、カフェでPCを広げてイヤホンをしながらひそひそと会議をしている人たち、昼間のカラオケボックスに集まるお年寄りの人たち……。

「あ、今までの価値観だとちょっと説明できない行動をしているな」と違和感を覚えたら、それは新しい「あたりまえ」を実践する人たちの最初の行動なのかもしれません。

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