「労基法違反」は大したダメージにならない
(4)抑止力になっていない司法
いまだに多くの労基法違反が発生しているのは、ズバリ「違反しても企業にとっては大きな痛手にならない」ためだ。
実際、労基法に違反した会社はめったに取り締まられることはなく、労基署の臨検を受けて違法行為が見つかっても、「是正勧告」がなされて書面を提出すれば終わり。
労基署からの勧告を複数回無視するとようやく書類送検されるが、そこから起訴されることは稀であり、仮に起訴され、有罪判決を受けても、それに対する罰則の多くが「6カ月未満の懲役もしくは30万円以下の罰金」であり、法律とその運用が、まったく違法行為の抑止力になっていないのだ。
「解雇」以外の違法行為には甘い歴史的事情
現行の「労働基準法」は戦後間もない時期に制定されたもので、重点指導対象は「工場労働者の安全衛生」であり、法違反に対して罰則が緩い。
これは戦後復興期に、国として財源が不足しているなかでも社会保障を拡充しなければならないという局面において成立した、「企業が雇用を増やすことで社会保障の一部を担う」「企業が負担する雇用と保障について行政が支援する」「労組が経営を監視する」という役割分担をそのまま継承している。
したがって現在に至るまで、司法は「解雇」に対しては大変厳しい判断を示す一方で、「長時間労働」「サービス残業強要」「各種ハラスメント」といったそれ以外の違反については、「雇用が守られているなら……」と大目に見られている面がある。すべては当時の役割分担に起因していると考えられる。
人手不足の労働基準監督署に持ち込まれる相談案件の数が多すぎて、実質的に捌き切れていないことも背景にある。
日本は労働者数あたりの労働基準監督官(以下、監督官)の数が他国と比較して相対的に少なく、監督官が日本に存在するすべての事業所を訪問するとなると、現在の監督官の人数では何十年もかかってしまう計算になる。人員増の要求は以前からおこなわれているが、厳しい財政状況もあり、なかなか実現できていないのが現状だ。