弁護士の上田裕さんは、「殺人的にブラック」な企業の社員から未払い賃金で相談を受けた。上田さんは「その企業の社長は、社員に『1週間120時間働くこと』と指示していた。平日5日は120時間しかないので、言っている意味がまったくわからなかった」という――。

※本稿は、ブラック企業被害対策弁護団『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)の一部を再編集したものです。

無限に続くスパイラルの時計
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「殺人的にブラック」な企業の残業代未払い

今回紹介する事件は、一見したところの破壊力に地味さがあるかもしれない。しかし、実態は殺人的に「ブラック」であるので、お読みいただきたい。

今回登場する会社は、東京・神奈川を中心に経営コンサルティング業を営む株式会社である。ここで働いていた労働者のS氏からの相談を受けたのは、2015年のことである。S氏の相談は、未払いの残業代があるのではないかというもので、ごく一般的な未払残業代請求の事件として受任するのではないかと思いながら話を伺った。

S氏の担当業務は、医療機関のコンサルティングで、近隣の医院のホームページの調査やSEO対策などの顧客分析、パンフレット作成、経営セミナーの準備等を行っていた。いずれの業務も、事前の調査や資料作成など、多くの時間を要するものばかりであり、会社の所定労働時間(契約で定められた通常の労働時間のこと)である8時間では到底終わる量ではなかった。

社長が「1週間120時間働くこと」と指示

その上、研修として毎週4〜5冊の指定書籍を読み込み、感想文を提出のうえ、試験をクリアすることが求められていた。会社が提出してきた資料によると、指定書籍を読むに当たっての最低所要時間というものがあって、それだけでも20〜35時間となっていて、週の法定労働時間、つまり労働基準法で定められた労働時間の上限/週40時間の大半を消化してしまう。

労働時間に関する社長からの指示内容を、社内研修の講話や業務報告に対するコメントで見ることができたのだが、そこには「人の3倍の仕事量に取り組むこと」「1週間120時間働くこと」という指示があった。

?? これだけでは、言っている意味がすぐには分からない……。

そこで、この指示の内容を考えてみたい。