上司のパワハラで休職を余儀なくされた男性は、録音データなどの明確な証拠がなかったにもかかわらず、2000万円もの賠償金を会社から勝ち取ることができた。弁護士の中川拓さんは「一見パワハラとは関係ない資料からでも、丁寧に記憶を復元できれば、裁判所が認めてくれる場合がある」という――。

※本稿は、ブラック企業被害対策弁護団『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/Tomasz Śmigla
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パワハラ企業に2000万円の支払い命令

Aさんは、デザイナーとして入社した広告制作会社で、2013年3月に新しく上司になったSから、「噓つき」「卑怯者」「犯罪者」など人格を否定する叱責(パワハラ)を受け続け、精神疾患(適応障害)を発症し、14年7月に休職。1年後、休職期間満了を理由に解雇された。詳細は、前回をお読みいただきたい。これはその後日談である。

凄絶なパワハラを受けた労働者は自殺することも多い。しかしAさんは生き残った。そして弁護士に相談し、裁判で争うこととした。15年12月10日、Aさんは長崎地裁に提訴。そして3年後の18年12月7日、土屋毅裁判官は、会社に合計約2000万円の支払いを命じ、Aさん勝訴の判決を言い渡した。

マスコミ各社は、この判決を大きく報道した。その要因には、支払い命令が「約2000万円」と大きかったという点もあるだろう。ここには、次のようなさまざまなお金が含まれている。