働き方改革が浸透しても、なぜか劣悪な労働環境はなくならない。ビジネスコンサルタントの新田龍さんは「消費者がコスパを追求する限り、過重労働と不払い残業によって従業員にシワ寄せをしてでも商品やサービスを安く出そうとするブラック企業は出現し続ける」という――。(前編/全2回)
フロアの電気が落ちたオフィスで疲れを押して残業する女性
写真=iStock.com/Jay Yuno
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企業による違法行為の被害者は絶えない

ブラック企業は時代遅れのはずなのに、しぶとく生き永らえている。いまだに「知らずに入った会社が実はブラック企業だった!」といった被害報告は絶えることがないのだ。

それは一体なぜなのか。私はその理由は大きく分けて7つあり、それぞれが複雑に絡み合っていると考えている。

本稿では、代表的な「ブラック企業を延命させている元凶」について解説していきたい。

(1)「ブラック企業」という言葉そのもの

「ブラック企業」という言葉の存在自体が、ブラック企業にまつわる諸問題をややこしくし、かつ真にアプローチすべき問題点を見えにくくさせている原因かもしれない。

「ブラック企業」という言葉はあまりにキャッチーであり、便利すぎるのだ。

例えば、労働環境にまつわる諸問題として、賃金や残業代の不払いは「労働基準法違反」だし、パワハラの場合は「侮辱罪」「傷害罪」「名誉毀損罪」、セクハラなら「強制猥褻罪」等が該当するかもしれない。経営者や従業員の行為として「詐欺罪」「収賄罪」「横領罪」「背任罪」等も当てはまるだろう。

訴訟リスクを回避する安全で便利な言葉

これらはれっきとした「違法行為」であり、すぐにでも糺さなければならない重大事案だ。しかし、それらをメディアを通じて公に指摘してしまうと、事実であっても場合によっては「名誉毀損罪」が成立してしまうリスクがある。

しかし「あの会社はブラック企業だ!」と指摘するだけなら、具体的に事実を適示しているわけではなく、かつ「なんとなく怪しい」イメージを読者に植え付けることができるので、実に都合がいいという面がある。

一方で、従業員目線からの「なかなか給料が上がらない」「(残業代は出るが)長時間労働が蔓延している」「ノルマがある」「上司や先輩が厳しい」……といった、特段の違法行為でもなく、単に受け手にとって「個人的に不快な事態」までもが「ブラック企業」とひとまとめに論じられてしまうことがある。

当然ながら「何をブラックだと認識するか」という基準自体も人によってまちまちであり(「違法レベルのハードワークでも、見合う報酬が得られるならOK」VS「違法な時点でそもそもアウト」など)、結果としてその会社は本当に違法なことをやっているのか、もしくはお気持ちで不快なだけなのかが分かりにくくなり、議論をややこしくする元凶となってしまうのだ。