商品・情報量を豊富にすることで成功しているケースは多い

実際、販売の現場を見てみれば、「逆U字」に従って商品や情報の量を絞っているケースは、むしろ少ないと言っていい。EC(オンラインショッピング)はもちろん、ショッピングモール、百貨店、家電量販店などリアルの店でも、商品・情報の幅と量を豊富に取りそろえることで成功を収めていることは多い。多種多様な本に浸るように滞在できる空間が人気を集める蔦屋書店、商品・情報のあふれるカオスな空間で楽しませるドン・キホーテは、その良い例である。

近年の研究では、現代の消費者は意思決定を二極化させやすい傾向が指摘されている。1つは、労力や面倒を避け、楽に、合理的・効率的な意思決定を好む、「悩まずに決めたい」というニーズだ。クチコミ、お薦め情報、担当者やAIの最適提案などを受け入れて、悩むことなく受け身で意思決定できることを望む傾向が増しており、そのニーズに応える「コンシェルジュ型」と呼べるサービスが支持されている。

「悩まずに決めたい」ニーズと「悩み抜いて決めたい」ニーズ

もう1つは、迷うことや悩むことを楽しみ、あえて非合理的・非効率的な意思決定を好む、「悩みぬいて決めたい」ニーズだ。類似するジャンルや価格帯の店をフロアに集めて「悩む楽しさ」を提供するショッピングモール、価格やクチコミなどを比較検討しながら無数の選択肢から自分で絞り込んで選ぶEC、無限に提案される画像や動画の取捨選択を楽しみながら見たいものを選んでいくSNSなど、消費者が悩みぬいて意思決定することを楽しむ傾向も増加しており、そのニーズに応える「脱出ゲーム型」と呼べるサービスも確かな支持を集めている。

現代の消費者は、リアルでもネット・SNSでも、情報の洪水の中で生活しており、その環境が当たり前になっている。その環境の反動によって「悩まずに決めたい」ニーズが生まれ、それを満たすコンシェルジュ型のサービスの価値が高まっている。それと同時に、一方では、情報過多の環境に適応することで、「悩みぬいて決めたい」ニーズも生まれており、こちらを満たす脱出ゲーム型のサービスの価値も高まっている。つまり、かつての中庸が好まれる「逆U字」から、両極端の支持に分かれる「U字」に消費者の傾向は変化してきていると考えられる(図表1)。

図表=筆者作成