大量の選択肢から「自分だけのカレー」を注文できる

ココイチを利用するお客は、まず、定番のグランドメニュー、「カシミールチキンカレー」(※3)のような期間限定メニュー、JR秋葉原駅昭和通り口店の「秋葉原まかないカレー」のような店舗限定メニューの中から1つを選ぶ。

※3 カシミールチキンカレーは、2024年9月1日(日)から、10月以降なくなり次第終了の期間限定メニュー。

そこからカスタマイズが始まり、基本のポークカレーを含めて5種類あるカレーソースから選ぶ。食べたいボリュームに合わせ、150~400gは50gごと、400gからは100gごとで選べるライスの量、完食条件をクリアすることで辛さを足していける、甘口から20辛の辛さ指定。そして、肉類・魚介類・野菜類・その他(チーズなど)、40種類以上にもおよぶトッピング。「これが欲しい」「もっとあったら良いのに」といった顧客の要望に1つ1つ応えていく、長い歴史を経て形成された12億通り超のカスタマイズサービスがあることで、顧客はそれぞれに「こだわり」、「マイルール」、「いつもの」、自分だけの特別なカレーを注文することができるようになっている。

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「選択肢が多すぎることは逆効果」と言われていた

ココイチの12億通り超のカスタマイズサービスは、唯一無二の強みとして力を発揮しているが、じつは、従来のマーケティング理論とは相反するものになっている。従来のマーケティングの理論では、選択肢が多すぎることは逆効果となり、人の意思決定率や満足度を低下させてしまう「選択肢過多」や「情報過負荷」の現象が起きると指摘されてきた。スーパーマーケットの店頭に並べるジャムの商品数を操作した実験が有名で、数を増やすと消費者は関心を高めるが、一定の限界を超えると消費者は混乱してしまい、逆に商品を選ばなくなる結果が確認された。

このように、過剰な選択肢や情報は逆効果を招くため、混乱させないように選択肢・情報をほどほどに絞ることが最適となる「逆U字」の考え方が1つの定説とされてきた。ただ、これは1990年代に提唱された概念であり、30年後の現在の人や環境に本当に、いつでも当てはまるのかどうか、疑問を抱いていいだろう。インターネット環境が不自由でSNSが存在しなかった1990年代と現代では、消費者の感覚や価値観、情報処理の速度や傾向には、確実に大きな変化が生じているからだ。