貯蓄はほぼゼロ借金は700万円を超える

研一さんの就業状況を確認する必要があるのは、母親自体が生活に窮しているからである。母親は自分の老齢基礎年金と亡き夫の遺族厚生年金を合わせて、月に手取りで18万円くらいの年金を受け取っている。持ち家であり、母親ひとりの生活費であれば、なんとかまかなうことも可能な金額と言える。

ところが、正社員並みの勤務時間で働いているはずの研一さんは、家に5000円しかお金を入れず、研一さんの携帯電話代なども母親が支払っている。国民健康保険料の滞納通知も届いたのを発見している。

そんな小川家の貯蓄はゼロ。マンションの管理費と修繕費を7カ月も滞納している。滞納月が4カ月目に入った頃から、マンション内でも小川家の滞納は問題視されているそうだ。管理費と修繕積立金は、年金が入った月に2~3カ月分ずつ払っているそうだが、ほかにも母親は、知人や親戚から合計で700万円ほどの借金をしている。

入ってきた年金は、滞納している管理費や修繕積立金、知人などへの借金の返済によって、すぐに出ていってしまう。手元にはわずかな生活費しか残らず、最近では電気代などの公共料金の支払いにも窮する機会が増え、困窮度は日に日に高まっている。

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このような状況にもかかわらず、生活費を5000円しか家に入れず、働いている状況についても、まったく教えようとしないのが、小川家の置かれている状況である。おそらく研一さんは、自分の家がそこまで追い詰められている現実を理解していないのではないだろうか。

母親はときどき、次のような質問を研一さんに投げかけているという。「お母さんも80代に入っているから、いつ、病気になったり、介護が必要になるかもしれない。そうしたら、あなたはどうするの?」この質問に対して研一さんは、「お母さんが死んだら生活保護を受けるから、俺のことはほっといてくれ」と言い返されるという。

母親は現状を研一さんにきちんと説明しないまま、時間だけがすぎている。研一さんの働き方や収入などを把握することと同じくらい、研一さんに家計の現状を知ってもらうことも緊急の課題である。そのため、研一さんにも相談に同席してもらうように頼んでいるが、実現の可能性はかなり低い。

リバースモーゲージを利用して借金をきれいにしたい

研一さんの生活設計にかかわる相談がまったく進まない中、母親は「知人や親戚への借金を返すために、リバースモーゲージを利用できないか?」とたずねてきた。調べたところ、母親が住んでいるマンションは、リバースモーゲージの対象になることがわかり、借りられる金額もおおよそつかめた。

ただし、リバースモーゲージを申し込むときには、相続人である長女や長男の同意が必要になる。借りた金額を、相続人となる研一さんは返せないだろうし、長女は配偶者と共有名義でマイホームを持っているため、実家を相続することはないのが、小川家の状況だ。リバースモーゲージを利用すれば、母親亡き後、家を手放すことになり、研一さんは住む家を失う。そのことを研一さんが理解しないまま、リバースモーゲージを利用することはできない。

またリバースモーゲージを利用した場合、借金の元本部分の返済は契約者が亡くなるまで先送りできるが、存命中には利息を支払うことになる。滞納している管理費・修繕積立金を支払い、知人や親戚への借金を返済できるだけの金額を借りれば、目の前の生活はいったん楽になれるが、利息の分だけ、生活コストはかさむ。

小川家には貯蓄がないため、今までは母親が入院した場合などは、知人や親戚に医療費を借りてしのいできた。医療費も、知人や親戚への借金の理由となっている。今後は、まとまった医療費が発生したとしても、手持ちのお金で支払えるようにするため、予備資金分も上乗せして借り入れをしたいという希望もある。

借りる金額で、支払う利息額も変わってくる。いずれにしてもリバースモーゲージを利用すれば、親亡き後の研一さんの生活設計に大きな影響を与えるため、リバースモーゲージを申し込むのであれば、申し込みの前に研一さんと面談したいと、再度強くお願いした。