夫に先立たれた年金暮らしの83歳の女性は51歳の息子と同居している。以前はひきこもりがちだった息子だが、現在は平日8時間以上働いている。だが、家に入れるお金は月に5000円のみ。女性は以前、親戚などから医療費や生活費として700万円を借りているが、カツカツの生活の中で返済のメドは立っていない。ここ2年で7回も無料の家計相談を受けているFP畠中雅子さんは「本気で事態を改善しようという気持ちが感じられない」という――。
スマートフォンで通話しているシニア女性
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本連載では、働けていない子どもの生活設計を考え、金銭的に再生できることを目指した記事を執筆しているが、今回取り上げるのは、数年にも及ぶ相談を繰り返しても、家計改善どころか、現状把握すらできないケースである。だが、働けない子どもを持つ家庭向けの相談では、今回のような相談事例は少なくない。アドバイスをおこなったあと何年も、時には10年以上足踏みを繰り返すケースもある。そこで今回は、悪い相談事例として紹介する。

平日は8時間以上働いている51歳長男と同居する83歳母

東京都内に住む小川研一さん(仮名・51歳)は、高校を卒業後、芸術系の専門学校に進学した。本人が希望する進学先だったが、1年生の夏休み明けから学校に行かなくなった。母親の印象では、いじめに遭ったわけではなさそうだというが、学校に行けなくなった理由はわからないままだという。

専門学校を中退後は、20代半ばまで自宅にひきこもっていた研一さん。ひきこもるといっても、父親が仕事に行っているあいだは、家の中を自由に動き回っていた。

「働かない息子」に常にいらだっていた父親は、研一さんの顔を見ると、「早く仕事を探せ」と怒鳴りつけた。父親に叱責されたことから、ときどきアルバイトをすることはあったが、そのアルバイトも数カ月くらいで辞めることが多かった。アルバイトを辞めた後は、数カ月くらい何もせずに暮らし、次のアルバイトを探すといったサイクルを繰り返してきた。

アルバイトをしていない時期は、自室に閉じこもり、食事は母親が部屋の前に運ぶという生活を送っていた。40代に入った頃には、アルバイトをしている期間よりも、働かない期間のほうが長くなってきた。

本人が40代の半ばの頃、父親が78歳で逝去した。

口うるさかった父親が亡くなったことで、働くのを辞めるのではないかと母親は心配をしたそうだが、予想に反して、研一さんは新たに配送のアルバイトを始めた。しかも、平日は毎朝8時に家を出て、19時過ぎに帰ってくるのが、研一さんの1日のルーティンとなっている。自宅にいない時間から逆算すると、1日8時間以上は働いている計算になる。

小川家の家族構成
母親(83歳)
長女(54歳) 結婚して別居。子どもなし
長男(51歳) 当事者

資産状況
母親の貯蓄 ほぼ0円
年金 月18万円
長男の貯蓄および収入 不明