ロシア側から文句「情報管理しっかりしろ」

【佐藤】結果誤報とは何かというと、取られた文書の名前と順番を組み替えて誤報にすること。本当は決裁済みの正式な文書を取られているんだけれど、「その文書は途中段階の中間文書でした、正式な文書ではありません、あしからず」とシレッとやってしまう。これは国内ならわりと簡単にできる。

【西村】相手のある外交文書でそんなことが簡単にできるとは思えないね。

【佐藤】たしかに簡単ではなかった。何せ外交文書だったからかなり面倒だった。相手のあることなので、いったんフィックスした文書は簡単には結果誤報にはできない。当時はロシアとの信頼関係が絶大だったからできたんだよね。すぐにロシア外務省と話をすり合わせて、「メモランダム」というタイトルを「なんとか声明」みたいに変えて、順番も組み替えちゃった。でもさすがにロシア側から文句を言われたよ。「情報管理しっかりしろ」って。

【西村】情報を取った記者のほうはどうなった? その記事、もう掲載済みだったんだよね?

佐藤優・西村陽一『記者と官僚 特ダネの極意、情報操作の流儀』(中央公論新社)

【佐藤】最終合意文書として新聞に掲載したあとで、中間文書を掴まされたことになったんだから、それは大恥をかかされたと思うよ。その記者は、かわいそうにしばらく経って異動になったって。

【西村】結果誤報のからくりは知らないまま?

【佐藤】それが、外務省内の情報漏洩疑惑の当人であるロシア課長が、結果誤報のからくりもその記者に話しちゃったんだよ。「あれは佐藤が結果誤報にしてきたんだ」って。つまり自分が最終文書だと言って流したものだから、その記者に対して弁明しなくちゃならなくなったんだろうね。佐藤にやられた、佐藤のせいだ、佐藤が悪い、という言い方をしたようだ。だからその記者にはそのあとえらく恨まれた。

【西村】そりゃあ、そうなるよね。

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