現代の政権に重要な要素
岸田首相の場合はどうかと言えば、そもそものコアなファンが少ないうえに、「岸田政権の裏側」を肯定的に明かしてくれるような論客、記者もほとんどいなかったのではないか。官房副長官の木原誠二氏は時に生田よしかつ氏のネット番組に出演し、政権の事情を説明してはいたが、いかんせん政権の身内である。
あるいは岸田氏は「総理から電話があった」と公言するような人を周囲に置かなかったのかもしれないが、周囲も本人も「エピソードが立つ」ような説明、情報提供をしていなかったのではないかという懸念がある。
岸田政権と同様、安倍政権も支持率が3割まで落ち込んだことはあったのだが、そんな時こそコアなファンとインフルエンサーが援護射撃を行っていたため、「瀬戸際の戦い」感はあっても「衰退」のイメージは薄かった。一方、岸田政権の場合は援護の「弾幕が薄かった」のである。
世論工作は良くない。だが、世論対策やPR対策なくして、現代の政権は立ち行かない。
「進次郎構文」だけでは国政は乗り切れない
さて、総裁選で名乗りを上げる面々の中で、いったい誰が安倍式の広報、あるいは独自の効果的な世論対策を展開できるかと言えば、これはかなり難しい問題だ。
SNSだけで見ても、石破茂氏は一時、一部で「ゲル人気」があったが遠い昔の話になり、反逆児的姿勢の河野太郎氏は「ブロック太郎」と呼ばれるに至っている。
高市早苗氏は支持者こそSNSでの運動に熱心だが、自身はもっぱら地上戦で、各地でのリアルな後援会活動に励む。そのなかで本人アカウントが自ら独特なトーンの「高市応援歌動画」を好意的に紹介したため、波紋が広がっている。
小林鷹之氏は素の姿を見せて親近感を広めつつ、エリートらしく理想の政治を語るという「うまい使い方」をしているように見える。上川陽子外務大臣は静岡出身、お茶系の公益社団法人の役員を務めているせいか、和紅茶を飲む画像をXに投稿していた。
小泉進次郎氏は答弁が「進次郎構文」といじられるようになり、ポンコツキャラが転じて愛されキャラになっている。が、これは露出が少ないからこそ(そして現在、国政に大きな責任を負っていないからこそ)成り立つのであり、本格的に総裁選が始まり、実際総理になった暁には、別の戦略が求められることになる。
早速、それまで英語発信のみだったXアカウントの日本語運用をはじめ、youtubeチャンネルを開設。これまでは出演を断り続けてきたメディアへも登場することになろう。
岸田氏も3年前の総裁選ではちょっととぼけた「素」の姿を動画で公開していたが、総裁選と政権樹立後では同じようにはいかないのかもしれない。
岸田政権の広報戦略の失敗を生かせるのは誰なのか。そんな視点から総裁選を見るのも一興だろう。