広報能力の欠如
イーストン氏は岸田政権の最も重要な成果として米議会での演説を挙げる。アメリカのリーダーシップや国際秩序が危機に瀕しているとの懸念を〈聴衆に不快感を与えることなく率直に受け入れられる形で伝えることができたのは、岸田の外交手腕があればこそだった〉とし、常に従属的だった日米関係を転換させたとまで評価している。
さらには安全保障面で日米関係の強化を図ってきたバイデン米大統領からは「日本の役割を転換させた」との声が寄せられた。退任を決めてから残り僅かな任期の間にも、訪米・訪韓をして首脳会談を実施するとも報じられている。米韓政府が岸田氏をリーダーとして評価しているからこそだろう。
しかし、こうした外交手腕はもとより外交安保に関心の高い玄人には理解されても、一般には伝わりきらなかった。
もちろん、物価高や増税懸念など、より身近な問題、内政で成果を出していないとの指摘はある。だが「いいところが何もない」的な評価が目立ってしまったのは、つまるところ、政権の広報が専門家の外側にまでは働かず、「いかにその選択、決断が重要なものであったか」が伝わっていなかったというほかない。
安倍氏との大きな違い
なぜ岸田氏の功績は広く国民に伝わらなかったのか。同じく外交・安全保障面での活躍が支持につながり、「増税メガネ」どころか二度の消費増税を実施した安倍政権と比べ、SNSや言論界での扱われ方という観点から見てみたい。
一つは、功績以前に人柄が伝わらなかった点だろう。「キャラが立っていなかった」と言ってもいい。
安倍氏にはもともと強力でコアなファンがいたが、薄く広い広報も上手だった。例えば各都道府県からの要請で応じていた名産品の試食で、安倍氏は果物を食べると「ジューシー」とコメント。
毎度おなじみのコメントが続いたことで、安倍氏に批判的な人たちからは語彙不足を指摘されていたが、SNSではコアなファンのみならず広く「安倍と言えばジューシー」的にネタとして知られるようになった。ネタにされることで、親しみやすいリーダーとしてのイメージが伝播していたのだ。
このことは安倍氏自身ももちろん意識していた。筆者が2021年にインタビューした際、安倍氏は次のように述べている。
〈第二次政権時にはSNSにも大いに助けられました。(中略)SNS上で「安倍は果物を食べると必ず『ジューシー』と言う」と指摘されていることは知っていましたが(笑)〉(『PRESIDENT』2021年10月15日号)