「育ちがいい人は臆するところがない」

かつて、コラムニストの故・ナンシー関氏は、「世間て、たたきあげも好きだけど由緒正しいサラブレッドも好きだし」と喝破した(※2)。いまから27年前、1997年のNHK紅白歌合戦に初出場した松たか子氏をめぐる評論のなかで、次のように述べている。

しかし松たか子は「出場できて嬉しいです。頑張ります」と微笑みながらも、「出たい」感が希薄なのである。育ちの良さの延長としての来るものは拒まずというか、身についた適切な社交辞令のようなものとしか感じられない。

進次郎氏の「育ちの良さ」も、これと同じなのではないか。自民党の総裁、すなわち、総理大臣になる、そこに向けて、彼は奮闘するのだろうし、これまでも精進してきた。けれども、その姿には泥臭さがない。

いや、泥臭さがないと、支持している側が思いたい、思おうとしているのではないか。

歴史学者の本郷和人氏は、『世襲の日本史』(NHK出版新書)の「あとがき」で、「安倍晋三総理大臣と異なる政治的意見をいろいろと持っています。でも、外交の場で各国の首脳と堂々と渡り合っている姿を見ると、すごいなあ、と感嘆せざるを得ません」と述べ、その理由として、「育ちがいい人は臆するところがないんでしょうね(※3)」と書いている。

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「私利私欲のなさ」に、かすかな希望を託したい

進次郎氏が、本当に、心の底から、自民党総裁になりたい、とか、総理大臣になりたい、と願っているのかどうかは、定かではない。一般論として、人の心はわからない、というだけではない。そう思わせるのは、彼が「皆さんが当選させて初めて世襲は成立するんです」と突き放すように言い放つ無邪気さにある。

血みどろの権力闘争を勝ち抜いて総理の座を勝ち得る、そんなサクセスストーリーは、父・純一郎氏もまた描かなかった。郵政民営化をはじめ、自分の信じた道をただ進む。無心というか、私利私欲のなさを醸し出していたのではないか。

その息子たる進次郎氏には、もっと私心がないように、自民党支持層に映っているにちがいない。しかも、石破茂氏のように、野党から持て囃される軽率さ=邪心がない。より純粋に、ことによれば天然に、政治に向き合っている「育ちの良さ」が好感度を上げている。

「格差社会」が言われて久しいからこそ、「たたきあげ」には見られない、その「育ちの良さ」に、かすかな希望を託したい。切なる願いを凝集した先にいるのが、進次郎氏なのかもしれない。

参考文献
※2:ナンシー関『何がどうして』(角川文庫)
※3:本郷和人『世襲の日本史 「階級社会」はいかに生まれたか』(NHK出版新書)

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