寝ている時間はタイパが悪い?

――電車の中で眠っている人を当たり前に思うのはまずいということですね。

衝撃的な数字があるんですけど、アメリカの小児科学の教科書「Nelson Textbook of Pediatrics」には、高校生(17歳)で8時間15分の睡眠を推奨している。中学生(13~15歳)だと9時間15分~45分、小学生(~9歳)だと10時間以上ですよ。日本の子どもでこれだけ寝ている子は少ないでしょう。

子どもの頃から、特に小学校高学年以降になると塾やクラブ活動で忙しくなり、睡眠不足が当たり前になっていく。これは非常にまずい。本来、小学生までは朝型の睡眠パターンなのに、大人と同じく夜型になっている。

寝る間を惜しんで過ごすから、デジタルネイティブ世代は「眠る時間は何もしない非効率的な時間」と考えている。彼らにとって睡眠はタイパ(タイムパフォーマンス)が悪いわけですよ。こうした子どもたちが大人になっても、昼間眠いのが当たり前、睡眠不足が当たり前と考えるんですね。

日本人の睡眠不足は、非常に根が深い。

「失われた30年」を引き起こした“犯人”

――睡眠不足によって脳のパフォーマンスは低下し、人間性にも問題が出ている。日本はどうなっていくんでしょうか。

僕に言わせると、自分はこれでいいと満足しているけど、本来のパフォーマンスの半分も発揮できない人生を送っている。これではもったいないわけですよ。

そして、日本全体が「失われた30年」で衰退している。僕に言わせれば、睡眠不足が原因じゃないかと思いますね。睡眠不足は思考が停止する。大局に立って考える能力が失われるんですよ。つまり、自分自身を客観的に認知する「メタ認知」が低下する。

先進国では過去25年、30年の間に、認知症有病率が徐々に減ってきている一方、日本だけが上昇している。これも、睡眠不足が一因かもしれないと推測するわけです。本当に日本人の睡眠は由々しき事態にありますね。

(効果的な快眠方法については、後編へつづく)

(聞き手・構成=ライター・中沢弘子)
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