「このままだと失明するよ」

――つい長時間装着してしまうので、耳が痛いです……。

コンタクトの度数が低いと、気づかずに重ねてつけてしまうひともいます。ウソみたいな話ですが、目の痛みを訴えて受診した患者さんがいました。

なんでも、ソフトコンタクトをしたまま寝てしまい、翌朝そのことを忘れて新しいものを装着したと言うのですが、その患者さんの片目から3枚ずつ、計6枚のコンタクトがでてきました。

これも極端な例ですが、以前、ある十代の男性の患者さんが「目が充血して目やにが出る」と受診に来ました。ワンデーのコンタクトを使っているとのことで、「いつからつけているのか」と聞いたら「3カ月間つけっぱなし」だと言うのです。

幸い感染症は起こしていませんでしたが、今まで見たことがないくらい角膜(黒目)に“ぶりぶり”と血管ができていて、その時はさすがに「脅すわけじゃないけど、このままだと失明するよ」と注意しました。

撮影=髙須力
臨床経験も豊富な林田康隆医師

――角膜に血管ができる、というのはどういうことなのでしょうか。

人間の身体には、全身にめぐらされた血液によって栄養や酸素が送られています。

角膜には血管がないので、栄養素と酸素は涙を通して取り込んでいます。

もし身体の他の部位で、血液から酸素や栄養を受け取れなくなったらどうなるかというと、身体は「側副血行路」といって、新たに別の血流路をつくります。目も同じで涙から酸素を供給できなくなる状態が長く続くと、血管を作ります。

目の表面である角膜は透明であり、もともと血管がない組織ですので、血管を作ることは苦手です。未熟で異常な血管しか作ることができず、酸素不足は解消されません。

これを「角膜新生血管」と言いますが、もとの酸素不足が解消されないと、それが改善されるまでこの新生血管を作り続けることになります。

結果的に角膜が濁ってしまったり、ストレスがかかりすぎてしまって角膜の病気を発症してしまい、失明に至るような怖い病態を起こしてしまいます。

近年は素材の改良でかなり良くなっていますが、ソフトコンタクトレンズでは涙の交換が非常に悪いため、つけっぱなしにするというのは角膜とコンタクトレンズの間の古い涙がずっと交換されずに目の表面に接していることになりますので、酸素が極端に足りなくなるわけです。

前の日のお風呂を流さずに、その都度お湯を継ぎ足して入っているようなイメージです。イメージ的によくないことがわかりますよね。

水道水でコンタクトを洗ってはいけない

前述のようにソフトレンズは涙を吸着することが重要です。ただ、この性質は涙だけでなく細菌も吸着してしまいます。ですから、水道水で洗う、点眼薬を使う、汚い手で取り扱うなどが禁止されています。飲める水道水でも実際は細菌が存在しています。

ソフトレンズに細菌が付着すると、そこで増殖を始める。そんな時に、角膜に傷が入ってしまうと、汚染されたソフトレンズから細菌や微生物が角膜に入り込む。

とくにアメーバ(アカントアメーバ)が引き起こす「アメーバ角膜炎」は注意が必要です。目に強烈な痛みや赤みが出たり、涙が過剰に出るなどの症状が挙げられます。特効薬が存在しないため、治療をしても視力が完全に回復しない場合もあり、治療は困難です。悪化すると角膜に穴が開いたり、角膜混濁して視力を失うこともあります。

30年前なら教科書でしか見ない珍しい病気でした。しかし、今や若者の間では珍しくない。治療が難しく、失明にもつながる恐ろしい病気です。

©日本眼科医会
CL(コンタクトレンズ)で繁殖したアカントアメーバによって白く濁った瞳。第17回日本眼科記者懇談会【講演1】資料より