トランプ現象は「少数派に転落する経済弱者白人層の逆襲」 

というわけで、本書はトランプ候補の勝利を前提とした予想本ではない。筆者の関心は、今年の大統領選挙の「勝者が誰か」よりも、「トランプ現象」の背後に見え隠れする米国社会の大きな潮流が、いかなる方向へ進むか、そして世界や日本にどのような影響を及ぼすか、である。仮にトランプ氏が落選しても、それで「トランプ現象」自体は終わらない。「トランプ現象」はトランプ氏個人がつくった政治現象ではない。「トランプ現象」の本質は「少数派に転落する経済弱者白人層の逆襲」だからだ。

ジョージ・バーナード・ショーは「すべての歴史は両極端間にある世界の振動の記録にすぎない。歴史の一期間とは振り子のひと振りでしかないが、これがつねに動いているので、各世代は世界が進歩していると思っている」という言葉を残した。本書における筆者の仮説は、ショーの言う「歴史」と「世界」を「政治」に置き換えてみれば、「すべての政治は両極端間にある政治の振動の記録にすぎない。政治の一期間とは振り子のひと振りでしかないが、これがつねに動いているので、各世代は政治が進歩していると思っている」となる。だが、これだけでは聡明な読者の方々に満足いただけないだろう。万一、本当に「もしトラ」になってしまったら、おそらく世界は「大混乱」に陥るからだ。

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トランプ再選の悪いニュースと良いニュース

ワシントンには当初、今回の大統領選挙を「老人(バイデン)vs狂人(トランプ)」と評する向きすらあった。それはともかく、もし本当にトランプ候補が勝利した場合、米国の安全保障政策が再び大きく変化する可能性は、残念ながら否定できない。詳細については本編を熟読いただくこととし、ここでは筆者の現時点でのトランプ再選に関する見立てを、悪いニュースと良いニュースに分けて、以下のとおり披露することとしたい。

【悪いニュース】

①外交・対外関係に関する比重は低下

「トランプ現象」の本質は米国内政の不可逆的な変化、とくに「少数派経済弱者に転落する白人男性・低学歴労働者・農民層の逆襲」であり、第二期トランプ政権の優先順位は内政となる。されば、外交の比重が低下するのはおそらく不可避であろう。

②トランプ候補の特異な性格

一部には、トランプ候補は「自己愛性パーソナリティ障害(NPD)」、すなわち「自己評価が過剰に高く、他者からの賞賛を欲するが、異常なほど自信がなく、自己の失敗を認めない」性格の持ち主との評すらある。真偽は不明だが、第一期トランプ政権を見れば頷ける分析である。

③反対派の大量粛清

第二期トランプ政権の最大関心事は「闇の政府(ディープ・ステート)」への報復となるだろう。過去8年間自分を批判してきた(おそらく、トランプ氏より能力のある)政治家・官僚に対し徹底的に復讐するはずだ。数少ない共和党良識派が大量粛清される恐れもある。