ドナルド・トランプ氏が米国大統領に再選されたら何が起きるのか。大統領選を約50年間見てきた元外交官の宮家邦彦さんは「今の段階では『もしトラ』を前提としてはいけない。だが、再選した場合には米国の安全保障政策が再び大きく変化する可能性は否定できない」という――。

※本稿は、宮家邦彦『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

米ノースカロライナ州での選挙集会で話すトランプ前大統領
写真=ゲッティ/共同通信社
米ノースカロライナ州での選挙集会で話すトランプ前大統領(=2024年8月14日)

「もしトラ」を前提としてはいけない

米大統領選に関して日本でも、気の早い人たちは「もしトラ」(もしトランプが再選されたら)とか、「ほぼトラ」(ほぼトランプ再選は決まった)などと言い出している。

だが「もしトラ」とは、結局選挙戦から退いた弱いバイデン候補以外に民主党の「有力候補がいない」ということでしかなかった。また「ほぼトラ」とは、「共和党予備選に限れば」トランプ候補の勝利が決まった、というだけの話だろう。

筆者は「もしトラ」を前提とした書籍を現時点で書くような「知的勇気」を持ち合わせていない。「競馬の予想屋」じゃあるまいし、9月第1週のレイバーデー(労働者の日)・ウィークエンドまでは踏み込んで予想するつもりはない。理由は簡単。同週末は米国で夏休み最後の連休となる時期であり、昔から無党派有権者の多くはそのときの米国経済情勢を見たうえで投票態度を決めると言われているからだ。

すでに2024年3月に行なわれた世論調査でも、サウスカロライナ州でトランプ氏に投票した共和党員のなかで「今後トランプ氏が有罪となれば、投票態度を再考する」と答える有権者が多かった。2024年5月30日にトランプ候補は、ポルノ女優への不倫口止め料支払いに関するニューヨーク州の刑事裁判で有罪評決を受けた。CNNなど中道・リベラル系メディアはこのニュースを連日勝ち誇ったかのように逐一報じている。

予測不能な「政治プロセス」が始まる

トランプ氏が抱える裁判の行方は11月5日大統領選投票日における無党派層の投票行動を左右するに違いない。対するバイデン氏も6月27日のテレビ討論会での「老醜」は目を覆うばかり。民主党内で「バイデン降ろし」が始まり、7月21日、選挙戦からの撤退を表明した。

今年の共和党大会は7月中旬にミルウォーキーで開かれ、民主党大会は8月中旬にシカゴで開催されるが、何が起きるか正直言ってよくわからない。共和党大会の2日前にはトランプ氏が銃撃され、民主党ではバイデン氏が、後任として副大統領のカマラ・ハリス氏の支持を決めたが、彼女の評価はあまり芳しくない。

今回は、従来の大統領選挙戦ノウハウを知る者にとっても、まったく異例の、予測不能な、新しい「政治プロセス」が始まる可能性が高い。