自分の中の「てるてる坊主」を捨てる

お金の不安を払拭するために個人レベルで可能なことは、やはり行政を選ぶこと。昔と違い、自治体によって政策の色が違っているので、住む街の選択によって生活の負担が変わってきます。「子どもをつくりたいけど、金銭面で不安がある」という人は明石市に来てくれれば、不安は相当軽減されるはずなんです。

コロナ禍以降、フルリモートでいつでもどこでも仕事ができる会社が増えて、昔のように出社が前提ではなくなってきました。仕事ができるなら、東京の企業に勤めていても、関西に住んで大丈夫な企業はたくさんあります。大手のIT企業さんからは、本当に多くの家族が明石市に引っ越してきています。

その人たちに話を聞くと、「家賃が安いから」「自然が豊か」「遊ぶ場所もある」などと言います。東京に比べて家賃は半分だけど、部屋は倍の広さ。大都会ではないかもしれないけど、そこそこの都会だから遊ぶ場所にも困らない、食べ物もおいしい。出社は月に一度だから、明石市でも問題ないわけです。考え方を変えるだけで、人生は豊かになる。これは東京からの移住者の話ですが、近い場所だと隣の神戸市からは毎年明石市に1000人くらい移住してきていますよ。

福岡市などはベンチャー・スタートアップに対する支援を行政単位で行っており、操業に関しての相談ができるスタートアップカフェや、スタートアップ・中小企業向けの制度融資などが整備されているので、起業を考えている人は福岡市に行けば「資金が足りないかもしれない」「誰にも相談できない」という悩みは小さくなるはず。自分が抱えている不安と向き合ってみて、悩みを細分化してみると、それを解消してくれる、その不安に寄り添ってくれる自治体があるはずです。

もう1つ大切なのは、問題を他人や世間に委ねず自分に委ねること、問題を細分化して目標を適切に設定することだと思います。

雨の日に吊るす「てるてる坊主」ってありますよね。私、子どもの頃からあれが大嫌いなんです。例えば運動会の前日に作るとしますよね。当たり前ですが、てるてる坊主を作ったからといって降水確率は変化しない。

本当に運動会がやりたいのであれば、自分の力で何ができるのかを考えることです。この場合なら天候ごとに運動会のプログラムを用意しておくこと。小雨だったら時間を短縮してやる、大雨なら体育館でやる、台風なら中止にして、別日を予備日として押さえておくとかね。そうすれば、仮に雨が降っても運動会は開催できる。

仕事でも同じで、「上司によい評価をされていないから、定年まで働けないかもしれない」という不安があるとします。これは問題が上司の心境にあるので、自分で変えるのは難しい。ただ、「どこでも通用する実力があれば、最悪クビになっても大丈夫だ」と考えることができれば、やることは実力をつけることになるので、あとは自分次第。コントロールできない不安ではなくなりますよね。考え方が変われば、あとは会社に留まるのか、転職をするのかを選ぶだけになります。

お金に関しても同じで、「子どもを大学まで行かせるためには、お金がたくさん必要だから」と子どもをつくらない人がいます。この中には漠然と「お金がたくさん必要」だと考えているから、次のステップに向かって歩き出すことができていない人もいる。しかし、調べてみれば公立小にかかる学費は年間約35万円、私立小は年間約166万円というデータが出ています(文部科学省『令和3年度子供の学習費調査』より)。中高大についても同様にデータが出ているので、オール国公立で大学まで出ると約800万円、大学だけ私立だとトータルはいくら、中高で塾に通わせるとプラスでいくら……と考えていけば、将来必要になる額はある程度わかる。こうやって抽象的になっている問題を具体化していけば、不安が解決可能な課題に変わっていきます。

また同じく発想の転換の例として、私は批判されても「ありがとう」と思うようにしており、そうすると、けっこう前向きに生きていけます。自分に対する批判を抽象的な悪意と捉えるのではなくて、「人からどう見えているか」という視点で見ると、自分を伸ばすことにつながる。

よくある批判として「明石市長の泉というやつは、子どもばかり大切にして高齢者のことはほったらかしだ」「これだけ市民サービスにお金を使っていると、財政が破綻するぞ」というものがあるのですが、明石市は先述のように高齢者への支援に対してもかなり力を入れていますし、財政も黒字です。

ここで「こいつは何もわかってない」と怒って終わりにするとそこで終わりですが、考え方を変えると、人から自分がどう見えているかを知るチャンスでもある。「高齢者支援に対しては広報が足りていなかったかもしれない。だから子育て支援と高齢者支援の話はセットでしてみよう」「自分の表現がつたなかった。黒字のアピールをもっとすべきだな」と考えると、自分を伸ばすことにつながる。だから私は、批判に対しても「ありがとう」と頭を下げています。

ここまでポジティブだと、自分でも自分のことを「変な男だな」と思うこともありますが、私は不安を感じて停滞しているよりも、前を向いてチャレンジし続けているほうがずっと楽しい。私の前向きなエネルギーが読者の皆さんに伝わって、少しでも不安と戦う手助けになれば嬉しいです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

(構成=白紙 緑 写真=時事通信フォト 図版作成=大橋昭一)
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