海軍の特殊部隊や空挺部隊の指揮官など

例えば現在のベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエル軍の最強部隊と言われるサイェレット・マトカルの元隊員です。同じくナフタリ・ベネット首相(2021―22年)、エフード・バラク首相(99―01年)もサイェレット・マトカル出身です。

イスラエルでは首相の次に国防相が重要な閣僚とされていますが、ネタニヤフ政権のヨアブ・ガラント国防相も海軍の特殊部隊として名高いシャイェテット・13の元隊員で、イスラム武装組織幹部の暗殺作戦に何度か従事した経験があります。

ほかにも、2000年代に首相だった、アリエル・シャロン首相は軍のエリートである空挺くうてい部隊の指揮官ですが、もともと、ハガナーと呼ばれるかつてのユダヤ人軍事組織の隊員でした。ハガナーは今のイスラエル軍や情報機関の礎になった組織で、パレスチナとの和平合意で有名なイツハク・ラビン首相もシモン・ペレス首相もこのハガナーの隊員でした。

さらに、これらのどの人物も実戦経験があります。ネタニヤフ首相は実戦で負傷し、同じく特殊部隊員だった兄は作戦で死亡した「英雄」として知られています。こうした指導者たちの戦場での経験が、イスラエル政府の政策決定に影響を与えているのは事実でしょう。

つまり、イスラエルは武人政治の国家なのです。少なくとも、国家の歴代指導者にこれだけ特殊部隊の隊員や軍人がいる国家は、他に例がありません。

ユダヤ人の血の歴史「マサダ要塞」とは

また、ガザで戦うイスラエル国防軍の兵士たちも、「殺さなければ殺される」というイスラエルの歴史を体現する場所で、兵士としての誓いを立てています。伝統的にイスラエル兵は、マサダ要塞ようさいという歴史的な場所で入隊宣誓式を行います。

マサダ要塞は死海しかいのリゾートから車ですぐに行ける山の上の要塞で、ロープウェイで山頂にも登れる観光地として知られ、イスラエルの雄大な景色が望める場所でもあります。ただ、そこから見える景色の素晴らしさとは裏腹に、実はこの要塞はユダヤ民族の悲劇を象徴する場所でもあります。

今からおよそ2000年前、当時のユダ王国がローマ帝国の支配下に入る中、マサダには抵抗を続けたユダヤ人約1000人が約3年間立てこもり、最後に集団自決しました。先に妻子を殺したユダヤの兵士たちは、続いて互いを殺し合ったとも言われています。こうしてマサダは、ユダヤ人の祖先が他の勢力に追い詰められ、死に追いやられた悲劇の場所となりました。