「甲子園優勝を人生のピークにしてほしくない」

優勝したあと、選手たちにも同じような話をした。

「今回の日本一を人生のピークにしてほしくない。これからもっと、日本一を超えるようないい思い出を作って、人生をどんどん上書きしてほしい」

甲子園で活躍したことによって、“燃え尽き症候群”に陥る高校生も多い。3万人を超える大観衆の前でプレーし、その一挙手一投足に歓声があがる。さらにマスコミの報道も多く、一日にして全国に名が広まることも珍しくない。

「人生のピーク」にしないために、必要な心構えは何か。

「まずは、意識の問題でしょうね。『人生はこれからだ。これからが本番だ』という気概を持てるかどうか。人生80年だとして、まだ18年です。大学に行って、社会に出てからが本当の勝負。そのためにはやっぱり、自分がどんな考えを持って、どんなことに時間をかけたいのか、自ら見つけていかなければいけないと思います」

真の成功は「おめでとう」ではなく「ありがとう」

夏の甲子園後、丸田に同じ質問をしたところ、「人のために、応援してくださる人の『ありがとう』という気持ちを大切にすることかなと思います」「自分が頑張ることで、誰かに喜んでもらえることに変わりはありません。そこをしっかりと受け止めることができれば、幸福度や達成感はあまり変わらないと思っています」という素敵な答えが返ってきて、「本当に高校3年生?」と驚かされた。

そのエピソードを森林監督に伝えると、さらに話を広げてくれた。

「野球での成功は『おめでとう』と言われますけど、社会的な成功には『ありがとう』と言われることが多いですよね。今回は、『おめでとう』以上に『ありがとう』と声をかけてもらうことが多かったので、甲子園の優勝だけではない価値があったのかなと思います。メンタルトレーニングの学びでもありますが、真の成功は、『おめでとう』ではなく『ありがとう』だという話を聞いて、たしかにと思いました。うちの優勝を見て、指導者の方であれば何かチームを変えるきっかけになったとか、現役の選手であれば、自分も頑張る勇気が湧いたとか、他人事ではなく自分事と捉えることで、『ありがとう』に代わっていくのかなと思います」