2023年の夏の甲子園で、森林貴彦監督率いる神奈川県代表の慶應義塾高校が107年ぶりの優勝を果たした。優勝直後、森林監督は部員に何を語ったのか。スポーツライターの大利実さんの著書『甲子園優勝監督の失敗学』(KADOKAWA)より、一部を紹介しよう――。
第105回全国高校野球選手権大会で107年ぶり2度目の優勝を果たし、喜ぶ慶応ナイン=8月、甲子園
写真=共同通信社
第105回全国高校野球選手権大会で107年ぶり2度目の優勝を果たし、喜ぶ慶応ナイン=2023年8月23日、甲子園

「ミスが出ても勝つ」が慶應の野球

仙台育英との夏の甲子園決勝は、丸田湊斗(慶應義塾大)の先頭打者ホームランに始まり、自分たちの流れで試合を運ぶことができた。

とはいえ、すべてがうまくいったわけではない。守備のミスがあり、決勝の大舞台で4エラー。「4エラーでの優勝なんて、過去にないんじゃないですか」と、森林監督は語るが、それでも勝ったことが大きい。

「ミスがあっても勝てた。ミスをしても日本一になれた。『ミスが出ても勝つ』という話はずっとしてきて、それが決勝でできたのは、ある意味うちらしい戦いでした」

高校野球を見ていると、「ミスをしたほうが負ける」「ミスが勝敗を分ける」「あのミスがなかったら……」と言われることが非常に多い。でも、野球そのものはミスが多い競技で、バント失敗があれば、守備のエラーもあれば、走塁ミスも付き物だ。そもそも、技術的にも精神的にも未熟な高校生がプレーしていることを考えれば、「え?」というようなプレーは起こりうる。

「まぁ、ミスしていいわけではないんですけど、試合中に引きずっても仕方がないんですよね。終わったことはもう忘れて、次に向かう。反省は試合後にする。そのスタンスを貫いていました」

ミスしても3秒で切り替える

チームで徹底していたのが、「3秒ルール」だ。何かミスが起きた場合には、3秒で次に切り替える。空を見るのもよし、声を出すのもよし、何でもいいので自分なりの切り替えのルーティンを作っておく。

この思考のベースとなっているのが、2021年の夏から取り入れたメンタルトレーニングだ。「SBT」(スーパーブレイントレーニング)を指導する吉岡眞司先生からさまざまなアドバイスをもらい、心の持ち方を学んでいる。うまくいかないとき、劣勢のときこそ、心をプラスにして、自分たちでいい雰囲気を作り出す。劣勢の場面で心まで沈んでしまえば、より暗くなるだけだろう。