「言葉にならない」をそのまま言葉に

とりわけ深いネガティブ感情が出てくる場合、どれだけ探しても、通りいっぺんの言葉しか見つからないものです。

でも、何か言葉はかけたい。

そんなとき、ピッタリの言葉を探すのではなく、「言葉にならない」をそのまま言葉にして伝えればいいのです。

「ごめん。何と言ったらいいか……。ちょっと言葉が見つからない……」

そう言って、一緒に隣で泣く。下手な言葉をかけられるよりも、よっぽど心に響きます。その後の会話が続かずに沈黙が流れても、「ただ隣にいるだけ」でいいのです。

写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです

自分の五感で感じていることを、シンプルな言葉で伝えるのもひとつの方法です。例えば次のような表現です。

「話を聞いていて、ちょっと……、自分が苦しくなってきた」

軽々しく通りいっぺんの言葉をかけられるよりも、よほど自分の気持ちをわかってもらえたと相手も感じることでしょう。

私は言葉によって、人を勇気づけることも、輝かせることもできると思っています。けれども、気持ちを言葉にできなくて、言葉が無力だと感じるときもあります。

言葉にならない気持ちを、無理に言葉にすると軽々しくなります。

そんなときは、その瞬間に感じていることや感覚を大事にしてください。

言葉にならない気持ちは、きっと相手の心に届きます。

自分の考えは脇に置いても考え方は存在している

相手とのより良いコミュニケーションのために、共感がとても大切であることはこれまでお話ししてきたとおりです。

しかし、この共感がいつの間にか「相手に合わせること=相手に合わせて自分の価値観を変えること」にすり替わってしまい、苦しくなることがあります。

共感とは、相手の考えや感情をそのとおりに感じることです。

あくまで相手の世界観をそのまま感じるだけであり、自分の価値観や考え方を相手に合わせて変えることではありません。

「自分はこう思うけど」という、自分の考え方は一旦脇に置いて相手の話を聞くのですが、脇に置いておくだけで、自分の考え方はきちんと存在しているのです。

私が会社に勤めていた頃のエピソードで、転職したばかりのときのお話です。

最初の出勤日、職場の上司や先輩がランチに誘ってくれました。

「何が食べたい?」と聞かれましたが、特にこれというものはなかったので「なんでも大丈夫です。お勧めのお店はありますか?」という会話をしながら、カレー屋さんに連れて行ってもらいました。

それぞれがメニューを見ながら注文を決めて、店員さんを呼んで注文します。