ヨーロッパに移ったワケ

彼がヨーロッパへ逃れることにしたのは、日々大きくなるプレッシャーから自分を解放し、決めていたことに変更を加えて改めて考え直す機会がほしかったからだろう。ジャーナリストたちはありとあらゆること、とりわけ政治について彼に意見を求めてきた。しかし、彼がヨーロッパへ旅立ったのは、政治に一切かかわりたくなくて逃れたと考えるのは誤りだろう。

ジェラルド・マーティン『ガブリエル・ガルシア=マルケス ある人生』(木村榮一訳、岩波書店)

聡明な彼は、影響力を持つには売れる小説を書いて成功を収めるしかないことを十分心得ていた。したがって、次作を書くために――とりわけ長年温めて書き上げた『百年の孤独』のように、次の作品のための時間と自由を確保することが先ず必要だったのだ。

『百年の孤独』が刊行された時点で『族長の秋』は出版する準備がほぼできていたが、こちらはもう一度全面的に書き直す必要があると思った――それは大ベストセラーにするべく書き直すのではなく、正確に言うと前作とは違う小説を書くためだと語っている。

さらに彼は読者を戸惑わせるようなことを言っている。といのも、『百年の孤独』が大当たりをとったのは、部分的に「技巧的な仕掛け」(のちに彼は「トリック」と呼ぶようになる)を少しばかり施したからで、それをトレードマークとして使うこともできた。だが、いっそのこと次の段階に進んで似ても似つかない作品を書きたいと思っていた。

「ぼくは自分をパロディ化したくないんだ」。

© 2008 by Gerald Martin

This translation of GABRIEL GARCÍA MÁRQUEZ: A LIFE by Gerald Martin is published by Iwanami Shoten, Publishers by arrangement with Bloomsbury Publishing Plc. through Tuttle Tuttle-Mori Agency Inc., Tokyo.

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