作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が話題だ。今年6月26日に新潮社から文庫版が発売されると、海外小説としては異例の26万部の大ヒットとなっている。世界的ベストセラーは、いかにして誕生したのか。『ガブリエル・ガルシア=マルケス ある人生』(岩波書店)より、一部を紹介する――。
※本稿は、ジェラルド・マーティン著『ガブリエル・ガルシア=マルケス ある人生』(木村榮一訳、岩波書店)の一部を再編集したものです。
『百年の孤独』を執筆する際に必ず来ていた服
作者が執筆していた部屋は、後年多くの人たちが「メルキアデスの部屋」と呼びたがったのと裏腹に、魔術的な雰囲気をたたえていなかった。ガルシア=マルケス自身がそう名づけた「マフィアの洞窟」は、小さなバスルームと中庭に面したドアと窓のある縦8フィート、横10フィートの狭い部屋だった。
そこにはソファ、電気ストーブ、本棚がいくつか、ごく普通の非常に小さいテーブルがあり、その上にオリベッティのタイプライターが置いてあった。執筆するために労働者のブルーの作業服を着るようになり――いつしかそれがすっかり慣例となっていた(ネクタイをする時でさえ脱がなかった)。
彼はすでに仕事を夜型から朝型に変えていたが、これは革命的な決断だった。今は一日の仕事を終えたあと、広告代理店、あるいは映画スタジオのオフィスで執筆する代わりに、子供たちが学校から戻ってくるまでの午前中に働いていた。家族からいろいろうるさく言われて創作に支障をきたしたり、行動を妨げられることはせず、ガルシア=マルケスは仕事と自己訓練に対する取り組み全体を変えるかもしれない変化を強いていた。