「敵を増やして信者も増やす」戦略が結実

トランプ氏はもともとテレビタレントということもあって、メディアの動かし方をよく知っている。単に好き勝手に「放言」「暴言」をしているわけではなく、既存のマスコミや、ホワイトハウスのリベラル層などを明確に「敵」として位置付けることで、「既得権益をぶっ壊す戦う政治家」という自己ブランディングをして、熱烈な支持者を獲得している、という見立てを発表したのである。

その直後、某キー局の情報番組から、「誰もトランプを褒めてくれる人がいないので」とインタビューの依頼があったため、VTR出演して「トランプ大統領」の可能性を示唆した。

すると、反響が大きくめちゃくちゃ怒られた。「レイシストめ!」「そんな与太話をして恥ずかしくないのか」とよく知らない人からさんざん叩かれて、記者時代の先輩からも「あんなバカが大統領になるなんて、あまり適当なことを言うとこの世界で食っていけないぞ」と真面目な顔で説教をされた。

しかし、結果はみなさんもご存じの通りだ。あれから8年が経過して、トランプ氏の「岩盤支持層」というのは、既存マスコミを「フェイクニュース」と批判して、既存マスコミが陰謀論だと批判している「ディープステート」という話を信じている。だから、トランプ氏が裁判で有罪になって、マスコミがボロカスに叩いても離れない。8年間続けてきた「敵を増やして信者も増やす」という戦略がここにきて実を結んでいるわけだ。

安倍氏、小泉氏、石原氏、橋下氏の系譜

こういう経験のある筆者からすると、今マスコミから「怖い」「パワハラ上司」「政治家失格」などボロカスに叩かれている石丸氏の姿が、8年前に「差別主義者」「アメリカの恥」と罵られていたトランプ氏と妙に重なるのだ。

誤解のないように断っておくが、石丸氏とトランプ氏が人間的に似ているとか言いたいわけではない。「敵を増やして信者も増やす」という明確な戦略をもって、既存のメディアに攻撃を仕掛けているという「戦い方」に共通点があるというだけだ。

しかも、もっと言ってしまうとこの「敵を増やして信者も増やす」という手法を得意とするのは、トランプ氏や石丸氏だけではない。政治家の中には、メディアとはどういうものかということを熟知した人や、世論を操る才能のある人がいるものだ。

わかりやすいのは、安倍晋三元首相や小泉純一郎元首相、小池百合子都知事、さらには故・石原慎太郎氏や政治家時代の橋下徹氏などだろう。

これらの人たちは、政治信条や人間性は大きく異なるが、共通しているのは「戦う政治家」という自己ブランディングに成功している人たちだ。